HACCPチームの編成・決定は導入の第一歩
HACCPの7原則12手順の「手順1」には、「HACCPチームの編成」が組み込まれています。つまり、HACCPチームを編成することは、HACCPの導入の第一歩ともいえるでしょう。そこで今回は、HACCPチームの編成を行う際のポイントなどについて解説します。
HACCPチームとは?
HACCPチームとは、工場内でHACCPを推進する役割を担ったチームのことです。たとえば食品工場の場合、製品を作るのにはさまざまな工程があります。そして、各所には異物混入といったトラブルが起こる可能性が秘められています。
HACCPチームはこうしたリスクを見つけ、改善や万が一の際の対応を決めていきます。そして、対応方法が決定したら、それを現場へと持ち帰り、作業員へ周知・指導をするという役割があり、こうした取り組みを行うために編成されます。
- HACCP計画の作成
- 手順書の作成
- HACCPに関する教育訓練
- 検証の実施
- HACCP計画、手順書の見直し
最大の目的は危害要因分析の情報収集
HACCPチームを結成する最大の目的は、手順6原則1にある「危害要因分析」の確実な実現です。そのため、多様なメンバーを集める必要があります。
たとえば、長年の経験を持つベテランスタッフであれば、ありがちなミスや、注意すべきポイントについても熟知しているでしょう。HACCPチームには欠かせないメンバーの一人といえます。
一方で、ベテランスタッフが作業に慣れすぎているという懸念もあります。ベテランだからこそ、ミスをする人の気持ちや行動がうまく理解できないこともあるでしょう。とくに危害要因を見つけるという意味では、ベテランだけでなく新人スタッフもHACCPチームに加わることで、新たな視点での発見があるかもしれません。
このように、HACCPチームはさまざまな視点から危害要因に関する情報を集めることが大切です。集めた材料を基に、机上だけではない現場に即したHACCPを作ることが、大きな目標となります。
HACCPチームのメンバーはどうやって選ぶ?
HACCPチームを編成するとき、迷うのはメンバーの選抜でしょう。「危害要因分析の確実な実現」が目的であることは分かっていても、具体的にどんな人選を行えばいいのかは悩み所です。そこで以下では、メンバー選びのポイントについて解説します。
チームリーダーの選考
HACCPのメンバーには、リーダーと実務者に分かれます。リーダーはHACCPの実現に向けた方針の決定や指示を行います。実務者は、リーダーからの指示を受け、現場での指導などを請け負います。
上記の流れがあることを考慮すると、はじめに決めるべきはやはりリーダーです。ここでのポイントは、チームがスムーズに活動できる環境づくりに貢献し、決定事項について業務命令という強い権限の基、全従業員へと周知できることでしょう。つまり、社内での決定権を持つ人物であることが重要になります。
その意味で、経営層はHACCPチームのメンバーに最適であるといえます。ある程度の裁量がない人がリーダーになってしまうと、HACCPが前進していきません。トップダウンで物事を動かせる力を持っていることは、HACCPチームのリーダーにもっとも望まれる資質です。
必須となるメンバー
次に、必ずリストに入れるべきメンバーについても考えていきましょう。
はじめに名前を挙げるべきは、施設の食品衛生責任者、もしくは食品衛生管理者です。当然のことながら、HACCPは食品衛生を守るためのシステムですから、衛生管理の責任者や管理者がチームに参加しないわけにはいきません。HACCPチームの編成時には、はじめに任命を行いましょう。
次に、業務達成のためのメンバー構成です。先述したとおり、HACCPチームはあらゆる箇所で起こりうる危害を予測できなくてはなりません。これはつまり、HACCPメンバーが揃うことで、すべての業務が把握できるようになること、とイコールといえます。その意味で言えば、すべての品質管理・品質保証に関連する実務に精通したメンバーの選出が必要となります。具体的には、以下のような担当者をメンバーとして任命しましょう。
- 品質管理担当者
- 商品開発担当者
- 販売担当者
- 総務・経理担当者
- 各工程管理担当者
- 原材料等購入担当者
- 外部コンサルタント など
生産部門だけではなく、たとえば総務や経理などの間接部門からもメンバーを招いているのがポイントです。生産現場を俯瞰して見られる視点を持つスタッフがチームに在籍していると、別の角度からの意見なども吸い上げられる可能性があります。
また、営業スタッフについては上記からは外しましたが、HACCPチームに参加してもらうこと自体には意義があります。たとえば、自社がHACCPへどのように取り組んでいるかを理解してもらい、部署でその内容を広めてもらいます。営業スタッフからすれば、自社のアピールポイントをひとつ多く理解したことになります。また、出先で適切な説明を行うことで、対外的なアピールにもつながるでしょう。
少人数でもチームは結成できる?
ある程度の規模感がある事業者であれば、各担当者をHACCPメンバーに専任することも難しくはないでしょう。しかし、社内事情によってメンバーがなかなか集められないケースも想定されます。だからといって、HACCPチームが結成できないというわけではありません。たとえば、社長がリーダーで実務メンバーは一人という構成も実際にはあり得ます。
この際に重要なのは、必要な情報を漏れなく集められる社内ルートの確保です。つまり、メンバーとして名を連ねていなかったとしても、必要な情報を教えてくれるスタッフが現場に在籍していればよいので、その聞き取り調査によって全業務における危害要因を把握できれば特に問題はありません。また、決定した事項をキーマンとなるスタッフに伝えることで、現場への共有を滞りなく行うことができれば、HACCPチームの目的は十分に達成できるでしょう。少人数だからといって諦めず、状況に応じて柔軟な対応を心がけましょう。
HACCPチーム結成後は文書を作成
HACCPチーム結成後には、以下の事項を記載した文章を作成し、チームを規定する必要があります。
- 役職名
- 氏名
- チームにおける役割
- 業務内容
- 受講したHACCPに関する検収や資格
HACCPにおいて、明文化は何より重要です。どのようなメンバーが揃っているのかがすぐに分かるよう、情報の整理と保存に取り組みましょう。
外部の専門家に頼ることも大切
HACCPチームはあくまでも指揮系統です。そのため、メンバー外のスタッフだからHACCPに関わる必要はない、というわけではありません。むしろ、社が一丸となって取り組まなくては、HACCPの実現は困難であるといえるでしょう。
ただし、後に登場する危害要因の分析や重要管理点の設定については、より専門的な知識を求められるケースも少なくありません。たとえば、食中毒を防止するために、特定の食材に対して何度以上の加熱調理を何分行わなくてはならない、などの取り決めは、化学的根拠に基づいて設定される必要があります。こうした専門的な検証に関しては、外部の専門家に依頼すべきシーンも出てくるでしょう。
HACCPチームはあくまでも導入・運用・保守の中心メンバーです。そこから周りを巻き込み、よりよいプランを作っていくことがもっとも大切です。
まとめ
HACCPチームの結成は、HACCP導入の第一歩です。適切なメンバーを集め、円滑に導入を進めていきましょう。また、自社だけでなく、外部も含めた知見や技術を持ち寄ることで、より確実な衛生管理体制を築くことも大切です。