HACCPにおけるアレルゲン管理
アレルゲンの管理は、食品事業者であれば以前より必ず実施してきた取り組みのひとつのはずです。しかし、近年でも未だアレルゲンに関わる食品事故は多発しており、より慎重な対応が求められてきました。実際に、HACCPのなかではアレルゲンは重要な危害要因であると捉えられており、適切な管理が求められています。そこでこちらでは、HACCPとアレルゲンの関係や、食品回収、管理対象となるアレルゲンなどについて解説します。また、後半で交差汚染防止のポイントにも触れていますので、こちらも合わせてご覧ください。
HACCPとアレルゲンの関係
まずはHACCPとアレルゲンの関係について見ていきましょう。
アレルゲンの管理は、HACCPにおける危害分析で登場します。アレルギーを持つ消費者にとっては非常に大きな危害であり、時には命に関わる問題です。そのため、危害分析の場面では慎重な判断が求められます。
また、HACCPの製品説明書作成の場面においても、原材料表示で関わりがあります。製品にどのようなアレルゲン物質が含まれているかを表示することは、製造主の義務のひとつ。必要に応じて、適切な表記が求められます。
アレルゲン管理の重要性が高まる
2020年11月に開催されたコーデックス委員会の総会において、HACCPガイドラインの改訂版が採択され、改めてアレルゲン管理の重要性が強調されました。日本はもちろん、海外でもアレルゲン管理は重要な問題として捉えられています。コーデックス委員会が新しい規範をこのタイミングで採択したのは、国際的な潮流であると言えるでしょう。なお、この際には、「アレルゲンを含む食品」から「アレルゲンを含まない食品」への意図しない移行(交差接触)の予防がとくに強調されていました。
また、第91回コーデックス連絡協議会のなかでもHACCPに取り組む上で、食品事業者がどのようにアレルゲンの管理について取り組むかの質問が出てきています。このように、HACCPとアレルゲン管理には密接な関わりがあります。HACCP導入の際には、アレルゲンに関する知識を踏まえた構築・運用が必要となることを意識しておきましょう。
アレルゲンが引き起こす食品回収
アレルゲンの表示は、アレルギーを持つ消費者にとって非常に重要な情報です。しかし、この表示ミスによって食品が回収となるケースは少なくなく、食品関連の事故としても大きな割合を占めているとされています。「微生物及び化学物質の混入」や「異物混入」、「品質不良」といった食品事故よりも高い割合であったとする統計もあるため、より慎重な取り扱いが求められると言えるでしょう。
アレルゲンの危害レベルはClassⅠ
2018年に改正された食品衛生法では、食品のリコール情報の広告制度が新たに適用されました。もしも製品回収という事故が発生した場合、事業者は国へと報告を行わなくてはなりません。その後、国は報告された内容を公表するとしています。
また、食品は危害レベルごとに以下のクラスで分類されます。
ClassⅠ | 喫食により健康被害が生じる可能性が高い食品 |
ClassⅡ | 喫食により健康被害が生じる可能性が否定できない、または可能性がほとんどない食品 |
ClassⅢ | 喫食により危害発生の可能性がない食品 |
アレルゲンは健康被害、ひいては人命に関わる重要な問題です。そのため、ClassⅠとして扱われる可能性も考えられます。
管理対象のアレルゲンとは?
厚生労働省では、食品衛生法に重篤な事態(アナフィラキシー)になる恐れのある7種類の物質を以下と定め、表示義務の対象としています。
- えび
- かに
- 小麦
- そば
- 卵
- 乳
- 落花生
いずれも、よく見かける代表的なアレルゲンです。ただし、実際にはアレルギーを引き起こす食品はまだまだ存在します。そのため、「場合によっては健康被害につながる20種類のアレルゲン物質」を定め、この表示が推奨されています。
なお、製品そのものに上記の原材料が含まれていなかったとしても、同じ製造ラインで作られていた場合には、「アレルギー物質○○を含む製品と同一製造ラインで製造したものであること」といった表示を行うことが推奨されています。それほどまでに、アレルゲンは症状を持つ方にとってセンシティブな問題なのです。
ただし、そもそも事業者側が製造ラインを分けていれば、実はこうした表示は不要です。もちろん、工場の動線上やむを得ない、といった事情も考えられますが、アレルギーを持つ方の商品選択の幅を広げるという意味でも、可能であれば検討してみましょう。
アレルゲンの区分管理〜交差汚染の防止〜
アレルギー疾患を持つ方が安心して食品を購入するためには、製造の段階からアレルゲンを危害と認識し、適切に取り扱うことが求められます。そこで注目しなくてはならないのが、交差汚染の防止です。以下から、アレルゲンの区分管理の代表的な方法を解説します。
原材料の区分保管
まずは「アレルギー物質を含む原材料」と「含まない原材料」を取り間違えないためにも、スペースを区分して保管しましょう。場所が違っていれば、誤使用のリスクを大きく減少できるのでおすすめです。
なお、スペースの関係上区分が難しい場合は、アレルギー物質を含む原材料がパッと見で分かるよう、区分ラベルなどを貼り付けるという方法もあります。とにかく、できるだけ容易に識別ができるよう工夫をするのがポイントです。
使用器具の区分
次に、使用器具についても分類を行いましょう。たとえば計量用容器などの器具は2種類以上用意し、そのうち1つはアレルギーを含む原材料専用にしてしまう、といった使い方が推奨されます。また、どの計量用容器がアレルゲン専用であるか分かりやすいよう、色分けやマークの表示といった工夫も行ってください。
どうしても容器等の使い分けが困難な状況であれば、徹底的な洗浄が必要になります。この場合は、アレルゲンが残存しない適切な洗浄方法であることの検証として、拭き取り検査による確認が望まれます。
製造ラインの洗浄
最後は製造ラインでの取り扱いです。まずは同一ラインで製造する他の製品にアレルゲンが含まれている場合は、使用後に洗浄を徹底し、アレルギー物心が残らないよう注意します。なお、洗浄の方法はさまざまなので、アレルゲンに合わせて効果的な手法を検討してください。また、拭き取り検査を行い、適切に洗浄できているかを検証しておくことも必要です。
また、洗浄方法が確定した場合には作業標準書を作成して共有し、工場や厨房全体での徹底を図りましょう。誰か一人が注意しても、アレルゲンを含む危害を取り除くことはできません。HACCPの衛生管理方法に則り、適切な対処に取り組みましょう。
まとめ
アレルゲンの管理はHACCPにおいても重要です。危害のひとつに数えられている以上は、重大な問題であるとして捉え、管理していかなくてはなりません。また、表示義務を守ることはもちろん、推奨の表示などについても正しく把握しておきましょう。加えて、今回ご紹介した交差汚染の防止を徹底し、アレルギー疾患を持つ方が安心して食を楽しめる環境をつくりましょう。