HACCP(ハサップ)とは
平成30年6月に制度化された「HACCPに沿った衛生管理」は、大規模な食品製造業はもちろん、比較的小規模な飲食店にも適用されます。対応のためには、HACCPについての正しい知識を身に付けなくてはなりません。そこでこちらでは、HACCPの概要や背景、導入に向けた準備についてご紹介します。
HACCPの概要
HACCP(読み方:ハサップ)とは、食品製造の工程で用いられる衛星・品質管理システムのことです。日本語では「危害分析重要管理点」と訳されます。
- H = Hazard:危害
- A = Analysis:分析
- C = Critical:重要
- P = Point:点
食品事業者は、食中毒汚染や異物混入といった危害要因を把握し、原材料入荷から製品出荷にいたるまでの全行程で、危害要因の除去と低減を目的とした管理を行います。その結果、製品の安全性が底上げされるのがHACCPの目指すゴールです。
● 従来の衛生管理手法とHACCPの違い
従来までの管理は、製品を最終工程で検査し、規定の基準をクリアしたかを確認して安全性を担保していました。一方、HACCPでは全行程のなかで危害要因を分析し、需要工程について重点的に管理していく方法です。この“全行程”という部分が大きな違いと言えるでしょう。
管理点が複数になるため、食品の安全性は向上します。加えて、何らかのトラブルが発生した際には、どの時点で問題が起こっていたのかなどの原因追及も容易になります。
● HACCP誕生の経緯
HACCPが誕生したのは1960年代のアメリカです。当時は、宇宙食の安全確保を目的に開発がなされました。
その後、食品の国際化が進んだことで、原材料や製品が国際規模で流通される時代へと突入します。より食の安全性が叫ばれるなか、工程・加工・流通・消費の全行程で、衛生管理が求められるようになりました。
ここで注目を集めたのがHACCPです。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関「食品規格(Codex)委員会」が「HACCPの考え方」を取りまとめ発表。国際的な採用推奨が認められるようになりました
日本のHACCP~義務化背景や必要性・メリット~
次に、日本におけるHACCPについてご紹介していきます。
2018年6月に衆議院で可決された「改正食品衛生法案」。実に15年ぶりの大改正となったこの法案では、食品の製造・加工・調理・販売を行うすべての事業者へ、HACCPの導入が求められました(HACCPに沿った衛生管理の制度化)。
本法案が施行されるのは2020年6月。ただし、経過措置期間が1年間設けられているため、義務化事態は2021年6月からとなります。食品製造・加工・調理・販売に携わるすべての事業者は、この期限までにHACCPを導入しなくてはなりません。
● HACCPが必要となった背景
政府がHACCP導入を本法案に取り入れた理由には、いくつかの背景が考えられます。
PL法の施行によって食品事業者に対し重い責任が課されたことや、1990年代に多発していた食中毒事故は、その最たる例と言えるでしょう。一方で、FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)などにより、大量の輸入食品が国内へと渡ってくる未来も想定されていると考えられます。そのほかにも、2020年の東京オリンピック開催に向け、「食品安全対策が徹底されている国」として日本を世界にアピールしたいという狙いもあるようです
● HACCP導入のメリット
義務化である以上、対応が求められるHACCPですが、導入によって得られるメリットは少なくありません。
製品の安全性が向上すれば、食品の事故リスクが低下します。食品を扱い事業者によって、食中毒等のリスクを低減できるのは大きなメリットでしょう。HACCPに取り組んでいるということで、消費者はもちろん、取引先企業からの信頼も得られるはずです。
また、HACCPを導入する際には現在の製造・加工工程についての見直しが行われます。この際、惰性で行っていたムダが見つかれば、その排除にもつながります。結果として業務が改善し、トータルコストの削減が実現するケースも考えられます。
「HACCP導入の効果・メリット」
● HACCP未導入の場合の罰則
義務化が決まっているHACCPですが、期限までに対応ができなかった場合はどのような罰則があるのでしょうか? ここでポイントとなるのが、各都道府県が定める条例です。そもそもHACCP自体には、明確な罰則は定められていません。しかし、食品衛生法には以下の条文があります。
都道府県知事等は、公衆衛生上必要な措置について、第一項の規定により定められた基準に反しない限り、条例で必要な規定を定めることができる。
(食品衛生法)
上記をかみ砕いて説明すると、各都道府県は、食品衛生法に関する決まりを規定に反しない限り、自由に設定できるということです。なお、罰則には「2年以内の懲役、100万円以下の罰金」という上限がありますが、決して軽いとは言えません。
また、罰則を受けることは信用の低下や風評被害に遭う可能性を秘めています。この場合、懲役や罰金以上に大きなダメージを被ることになるでしょう。それを踏まえると、HACCPへの対応はやはり義務であり、守らなくてはならないものと言えます。
HACCPの普及・導入状況
次に、HACCPが海外や日本国内でどれだけ普及・導入されているかについてもみていきます。なお、日本の対応は海外に比べて遅れていると言わざるをえません。とくに中小企業の普及状況は芳しくないというのが実情です。
● 海外におけるHACCPの広がり
発症の地であるアメリカはもちろん、ヨーロッパやアジアなど、世界各地でHACCPは採用されています。この状況を踏まえると、日本がHACCPへ対応するのは当然とも言えるでしょう。
アメリカ | 2011年に成立した食品安全強化法(FSMA)を受け、国内で消費される食品を製造・加工・梱包・保管するすべての施設に、FDAの登録と更新、そしてHACCPの概念を取り入れた措置の計画・実行が義務づけられている。 |
---|---|
EU | 2006年に、一次生産を除くすべての食品の生産・加工・流通業差がHACCPの概念を取り入れた衛生管理の導入を義務づけられた。 |
カナダ | 1992年から、水産食品・食肉・食肉製品についてHACCPの義務化が順次行われている。 |
オーストラリア | 1992年から、輸入向けの乳および乳製品・水産食品・食肉・食肉製品についてHACCPの義務化が順次行われている。 |
韓国 | 2012年より、魚肉加工品・冷凍水産食品・冷凍食品・氷菓類・非加熱飲料・レトルト食品・キムチ類についてHACCPの義務化が順次行われている。 |
台湾 | 2003年より、水産食品・食肉製品・乳加工品についてHACCPの義務化が順次行われている。 |
そのほか | ・ ロシアやメキシコ、ヴェトナムでHACCPの導入が検討されている ・ 中国、インド、タイでは、輸出食品に対してHACCPの義務化が行われている |
● 国内の普及は大企業中心
農林水産省が発表した「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査」によると、2017年の段階でHACCP導入済みの企業(従業員5名以上)は33.6%でした。また、導入途中・検討中の企業を合わせると6割以上にもなります。
一方、上記のグラフを見ると分かるとおり、導入が進んでいるのは年商が50億円を超えるいわゆる大企業ばかり。中小企業については、まだまだ普及しているとは言えない状況が続いています。
HACCPの特徴
ここからはより詳しく、HACCPシステムによる衛生管理手法について解説していきます。
HACCPでは、食の安全性に関わる危害要因あらゆる角度から予測します。それを踏まえ、工程ごとに危害原因物質と発生要因、危害の頻度、発生時の影響力を考慮しながらリストを作成。最終的に、管理点を設定して重点的な管理・記録を行います。大まかな流れは以下です
- 食品の製造・加工の工程で発生する可能性のある微生物汚染等の危害を調査・分析する(HA)
- 分析結果を基に、製造工程におけるどの段階にどのような対策を講じることで、より安全性が高まるかを重要管理事項(CCP)して定める
- 定められた重要管理事項(CCP)が守られているかを常時モニターし、製造工程全般を通して製品の安全確保を高める
上記の取り組みは単発でなく、継続的に行う必要があります。結果として、安全性の向上はもちろん、業務改善も実現。生産効率や品質、社会的信頼性の向上につながります。
● HACCPにおける危害分析(HA)とは
HACCPを理解するためには、とくに危害(H)と分析(A)について詳しく知る必要があります。これは、原材料及び製品の加工工程において、潜在的な危害要因がどれくらい発生するのか、発生してしまった際には健康被害などがどこまで及ぶのかを明確にし、それぞれの管理方法を決めておくことです。
たとえば野菜や肉には、それぞれ病原微生物が元から存在しています。また、下処理などの段階で、調理器具による汚染がなされる可能性もあるでしょう。そのほか、適切な温度管理ができておらず、病原微生物が増加してしまう可能性もないとは言えません。これらはすべて、危害要因(H)であると位置づけられます。
病原微生物のリスクを回避するためには、最終工程での加熱殺菌が欠かせません。加えて、加熱で対処できない病原微生物に対して急速冷却といった対処が求められる場面もあります。このように、各工程における危害分析を洗い出し、適切な管理手段を一つひとつ検証・選定していくことが危険要因分析(HA)です。HACCPならではの考え方のひとつであり、食品製造における安全性を大きく向上するシステムであると言われています。
HACCP導入に向けた準備
HACCPを実際に導入する場合は、事前の準備が必要です。以下の大まかな流れに沿って、導入を進めていくのが基本となります。
1. HACCPの対象範囲の確認
2. 一般的衛生管理プログラムの実施
3. HACCPの「12手順と7原則」の実施
それぞれを詳しく見ていきましょう。
● HACCPの対象範囲の確認
HACCPの対象となるのは食品を扱うすべての業者です。これは、食品衛生法で定める「営業許可が必要な34業種」とは別。つまり、食品衛生法で許可を求めていない業種についても対象となるため注意が必要です。
一方、小規模な飲食店などはHACCPシステムの完全な踏襲は困難と考えられます。そのため、どこまでの衛生管理に着手するかを分けた基準が設けられる見込みです。HACCP導入の際には、自社がどの基準に分けられるのかを事前に把握しておきましょう。
● HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)
従業員の多い大企業や大規模な食品工場では、「HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)」が適用となる見込みです。この場合は、「HACCPプランの作成」に加えて、以下の要求事項をクリアする必要があります。
- 危害要因分析
- 重要管理点の決定
- 管理基準の設定
- モニタリング方法の設定
- 改善措置の設定
- 検証方法の設定
- 記録と保存方法の設定
● HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)
以下のような事業者には、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が適用される見込みです。
- 従業員の少ない小規模事業者
- 店舗で小売販売のみを行う製造・加工・調理事業者
- 提供食品が多岐にわたり、変更頻度の多い業種
- 一般衛生管理の管理で対応が可能な業種
この際は、「HACCPの考えに基づく衛生管理計画の作成」が求められます。加えて、以下の3点が要求事項に挙げられています
- 危害要因分析
- モニタリング頻度決定
- 記録作成・保管の弾力化の検討
● 一般的衛生管理プログラムの実施
HACCPはあくまで衛生管理手法の一部です。効率的に機能させるには、衛生・安全対策の基本となる「一般的衛生管理プログラム」の実施が必須です。つまり、HACCP導入以前から、食品製造環境がクリーンでなくてはなりません。具体的には、以下の管理プログラムが漏れなく実施されているかを確認しましょう。
- 施設設備の衛生管理
- 従業員の衛生教育
- 機械器具の保守点検
- ソ族昆虫の防除
- 使用水の衛生管理
- 排水および廃棄物の衛生管理
- 従業員の衛生管理
- 食品などの衛生的取扱
- 食品の回収プログラム
- 製品等の試験検査に用いる設備の保守点検
● HACCPの「12手順と7原則」の実施
HACCP導入には12の手順が定められています。なお、手順6からはより高い重要度とされており、7原則と呼ばれています。
手順1 | HACCPのチーム編成 | 各部門の担当者を招集し、チームを編成する。 |
---|---|---|
手順2 | 製品説明書の作成 | 原材料の特性などをまとめた危害要因分析の基礎資料を作成する。内容が十分であれば様式は自由。 |
手順3 | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 | 加熱の有無などが書かれた製品の使用方法(用途)と、製品を提供する消費者(対象)を確認する。 |
手順4 | 製造工程一覧図の作成 | 受入から出荷、食事提供までの一連の流れを工程ごとにリスト化する。 |
手順5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 作成した製造工程図を基に、現場での人とモノの動きを確認しながら適宜修正を加える。 |
手順6 | 危害要因分析の実施(ハザード) | 原材料由来および工程中に発生する可能性のある危害要因を工程ごとにリスト化し、管理方法を選定する。 |
手順7 | 重要管理点(CCP)の決定 | 加熱殺菌や金属探知など、危害要因の除去・低減にあたり重要となる工程を決定する。 |
手順8 | 管理基準(CL)の設定 | 温度や時間、速度など、重要管理点(CCP)の適切な管理に向けた基準を設定する。 |
手順9 | モニタリング方法の設定 | 重要管理点(CCP)が適切に管理・運用されているかを一定の頻度でチェック・記録する。 |
手順10 | 改善措置の設定 | モニタリングで判明した管理基準逸脱事項について、必要となる措置を設定する。 |
手順11 | 検証方法の設定 | HACCPシステムを適切に管理する方法について確認し、修正が必要かなどを検討する。 |
手順12 | 記録と保存方法の設定 | HACCPの管理を適切に行うための記録と保存方法を決定する。問題発生時の切り分けや管理状況のさかのぼり、原因追及の材料となるため非常に重要。 |
HACCP認証と種類
国内には、HACCPに関連した認証制度や認証機関・協会が存在します。これらは、HACCPが機能していることを第三者に評価してもらう制度であり、合格することで各認証機関・協会からHACCPマークが与えられます(各機関・協会によってマークのデザインは異なります)。具体的な例としては、「各種業界団体の認定」や「地域HACCP」のほかにも、「ISO22000」や「FSSC22000」などがあります。
総合衛生管理製造過程 |
厚生労働省が食品衛生法によって定めているHACCP認証。以下の製品に限って取得可能。 ・ 乳および乳製品 ・ 食肉製品 ・ 容器包装詰加圧加熱殺菌食品 ・ 魚肉練り製品 ・ 清涼飲料水 |
---|---|
業界団体認証 | 適用範囲が特定の業界・業種に限定されるHACCP認証。 |
地域認定HACCP | 各自治体による独自基準の審査で取得できるHACCP認証。中小の食品会社でも取得がしやすい。 |
なお、認証機関・協会からの認証は「HACCPに沿った衛生管理」の要件には当てはまりません。必要となるのは「HACCPに沿った衛生管理の実施」のみであり、認証がないからといって未導入とはならないことにご注意ください。
● HACCPの認証・認定取得の流れと費用・期間
上記で説明したHACCPの認証・認定を取得するには、多くの場合研修への参加が必要です。ここでは、HACCPの基本についての講習が行われます。修了者は社に戻った後で責任者としてHACCPの導入を進め、最終的に指定認定機関の審査を受けるというのが一連の流れです。
なお、費用は事業規模や認証機関・協会により異なりますが、数十万円程度が目安です。機関は数カ月を見ておく必要がありますが、専門知識を持つ担当者がすでに在籍していれば短縮できるケースも少なくありません。
まとめ
HACCPに関するさまざまな情報について解説しました。ご紹介したとおり、導入のためにはさまざまな準備が必要です。しかし、何から着手すればよいか分からない方も多いでしょう。
当社では、HACCP対応に必須となる自動温度管理・記録のIoTシステムをご提供しています。HACCP導入の第一歩として、連続した温度データを正確に記録・保存し、分析を行いたいとお考えの方は、ぜひ当社までご相談ください。