HACCPにおける工程管理と微生物検査の関係
HACCPでは、最終製品に対して検査を行うのではなく、工程管理によって危害のリスクを限りなく0に近づけていくという考え方が採用されています。しかし、「より確実に危害を取り除くのであれば、最終製品に対して微生物検査を行うほうが良いのではないか?」「工程管理を行えば、微生物検査は必要ない」といった疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、なぜHACCPが工程管理によるリスクマネジメントを行うかの理解を深めるために、微生物検査との関係を詳しく見ていきます。
全品検査・抜き取り検査の問題
微生物検査の結果は、科学的な根拠に基づく信頼性の高い情報です。しかし大前提として、微生物検査によって製品の安全性を保障することは、かなりハードルが高いということを覚えておきましょう。
微生物検査を行うには、「全品検査」か「抜き取り検査」のいずれかを選ぶ必要があります。しかし、どちらを選んだとしても、それぞれ異なる問題が発生してしまうのです。
全品検査をすると出荷する製品がなくなってしまう
まずは全品検査から考えていきましょう。全品検査とはその名称のとおり、すべての商品に対して検査を行う方法です。工業製品などのなかには、こうしたチェックを行うようなものも存在します。
一方、食品の微生物検査には破壊的作業が伴います。こうした方法でないと、確実に微生物の有無を判断できないからです。しかし、出荷前の商品をすべてこの破壊的作業による検査に通すことはできません。検査を受けた製品にはダメージが及ぶため、売り物にはならず、すべてをチェックしていては出荷できるものがなくなってしまうからです。そのため、選べるのは抜き取り検査に限られます。
食品の検査には抜き取り方式が最適だが……
抜き取り検査自体は、食品の微生物検査において有効かつ正確な方法だとされています。その理由は、微生物汚染という特性が関係しています。たとえば工業製品の場合で考えてみましょう。良品の中に不良品が混じっている状況だと、抜き取り検査だけでは検査精度に問題があります。たまたま抜き取った製品が良品であっただけ、という域を超えないからです。そのため、理想的には非破壊的な全品検査を行い、不良品を取り除く必要があります。もしくは、一定の不良品の混入については許容する、という考え方もあります。
一方、食品の汚染はロット全体に広がります。たとえば特定のメニューを同じ釜で大量に調理していたとしましょう。そこに病原微生物が混入してしまえば、調理中の製品すべてが汚染されてしま
微生物検査には熟練と時間がかかる
前項の内容だけを踏まえると、抜き取りによる微生物検査をロットごとに行っていれば、確実に食品事故を防止できるように思えてしまいます。しかし、事はそう単純ではありません。
たとえば、微生物検査で多く用いられる公定法は、正確性が非常に高く信頼のできる検査方法のひとつです。実際に、食品検査では多く用いられています。
しかし、検査にあたっては熟練が求められ、かつ手技が煩雑という特徴があります。一般の従業員が行うのは難しく、専門家による実施が必要なのです。検査のためだけにこうした人材を迎え入れるのは、企業にとって大きな負担と言えるでしょう。また、内部精度管理や外部精度管理など、検査環境の整備も必要となるため、さらにコストがかさみます。事業規模の大きい事業者でもない限り、ここまでの人員配備・設備投資は現実的ではありません。
そして何より問題なのが、結果が出るまでに時間を要するという点です。食品には賞味期限が設定されています。そのため、製造後は速やかな出荷が望まれますが、検査がこれを阻んでしまうのです。結果として、すべての最終製品に対して行うこともできなくなり、頻度を減らすことを余儀なくされてしまします。
また、大量生産ともなれば、検査が必要なロット数も膨大になります。都度、煩雑な検査を行っていては生産性の大幅な低下にもつながるでしょう。このように、抜き取りによる微生物検査が都度実施できる状況というのは、現実ではありません。
HACCPは工程で危害を管理
前述のとおり、抜き取りによる微生物検査を最終製品に対して都度行うのは困難です。そこでHACCPでは、工程管理によって危害を取り除こうという考え方を採用しています。
流れとしては、HACCPの原則で示されているとおり、事前に危害要因分析を行い、そこから重要管理点を決定。管理基準を設定し、その逸脱をモニタリングしながら管理を行うというものです。一連の工程が正しく設定され、運用に不備がなければ、微生物が適切にコントロールされ、理論的には限りなく検出を0に近づけられると考えられます。
つまり、HACCPを運用しながら最終検査以外で微生物の管理を行うのであれば、何よりモニタリングが重要であるとも言えます。リアルタイムに状況を確認し、問題が起きた場合は迅速に対応できる環境を整えることが、食品安全性を高めるカギになるのです。
ちなみに、HACCPによる工程管理で微生物検査を行う場合は、あくまでも工程管理の適正運用を調べることが目的になります。そのため、目的を満たせる試験方法であれば、時間や手間のかかる公定法にこだわる必要はありません。より実効性に重きを置き、スピーディーで簡便な方法を用いるというのが求められます。
HACCPで微生物検査が必要な理由
前項で、HACCPが工程において危害リスクを低下させる仕組みだと解説しました。では、HACCPで微生物検査は行わないのかというと、そうではありません。
繰り返しとなりますが、HACCPでは抜き取りによる微生物検査ではなく、工程中の重要管理点をモニタリングし、すべての製品の監視にあたります。そのため、完成品について微生物検査を行う必要はありません。
一方、監視条件となっている“加熱”や“冷却”といった条件によって、危害を確実に取り除けることを証明するためには、事前に微生物検査によってそれを証明する必要があります。この際には、有害微生物が何なのか?保管中にはどうやって増殖抑制を行うのか?健康に害がない状態にまで加熱するためには、どのような条件があるのか?
こうした点について、しっかりと検査を行う必要があるのです。
まとめると、HACCPでは以下のような場合、微生物検査を行う必要性が出てくると言えます。
- 危害要因の分析(原料の微生物汚染状況、保管状況での微生物の増殖等)
- 管理方法の設定(微生物低減のための加熱条件)
- 監視(適切な運用状況確認)等の検証
- 従事者の手洗い方法
- 施設・設備の洗浄・消毒の有効性確認 など
まとめ
今回は少し内容が入り組むため、より簡潔にまとめてみましょう。
第一に、食品の最終製品に対して微生物検査を実施し、危害を取り除くという方法は、コストや手間、時間の問題で困難です。そのためHACCPでは、工程全体を管理することで危害を取り除く方法を採用しています。ただし、だからといって微生物検査が行われないわけではありません。とくに一般的衛生管理プログラムの振り返りやHACCP構築時には、確かなエビデンスを得るために微生物検査が積極的に利用されています。
上記の内容を把握しておくと、よりHACCPの考え方が理解できるはずです。
なお、当社では温度記録の自動化とリアルタイムでの遠隔監視を可能にするシステム「ACALA」シリーズをご提供しております。食品の加熱や冷却が管理基準通りに実施されているか、また食品保管や加工作業時の温度・湿度は適切かどうかをリアルタイムに監視することは、微生物のコントロールにおいて必須事項です。
当社のシステムは、連続的な測定データを改ざん不可能なクラウドサーバ上に保存・蓄積することが可能で、お客様の品質セキュリティに貢献します。温度記録の自動化や遠隔監視をご検討中の方はぜひ一度、お気軽にご相談ください。