HACCP未導入による罰則やデメリットは?
2020年6月に施行されたHACCP義務化を盛り込んだ食品衛生法等の一部改正。現在、導入に追われている企業も少なくありません。しかし、もしも完全義務化となる2021年6月までに導入が完了しなかった場合、どのような罰則があるのでしょうか? 今回は、HACCP未導入による罰則や、それによって発生するデメリットについて解説します。
原則、HACCP未導入での罰則は明記されていない
HACCPを制度化する食品衛生法。すでに猶予期間も過ぎ、現在はすべての食品事業者に導入が義務づけられています。しかし、義務ではあるものの、改正食品衛生法にHACCP未導入による罰則は記されていません。ただし、以下の条文には注意する必要があります。
食品衛生法 第五十条の二
この条文を端的に言うのなら、「HACCP義務化を無視した場合の罰則については、各都道府県に委ねる」ということ。そのため、都道府県条例次第では、HACCP未導入が原因で食品事業者に罰則が与えられる可能性があります。
都道府県の条例に違反した場合の罰則は?
都道府県が定める条例に違反した場合は、地方自治法第14条に明記されている罰則が与えられる可能性があります。
地方自治法第14条
もちろん、HACCPを導入していないから直ちに罰則が与えられるのではなく、実際には都道府県ごとに判断が下されます。とは言え、決して軽くない罰則が与えられることは忘れないようにしましょう。
食品衛生法違反になった場合の罰則は?
HACCP未導入の企業が食品衛生法違反に当たると都道府県が判断した場合、一般的には「衛生管理計画の不備等の改善に関する行政指導」が行われます。ここでの指導に従えば、罰則が与えられることはありません。しかし、事業者が行政指導に従わなかった場合には、営業の禁停止などの行政処分が下される可能性があります。
さらに、そもそも食品衛生法違反には3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金が課せられます。悪質な違反などには、こうした罰則が課せられるケースもあるのです。
取引先がHACCP未導入の場合に罰則はある?
HACCP未導入の企業から仕入れた食材で食品を製造した場合は、食品衛生法違反になるのでしょうか? 厚生労働省の「HACCP に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」によると、この場合に罰則等はありません。あくまでも、自社がHACCPを導入していることが重要とのことです。
ただし、「フードチェーン全体で食品の衛生管理は行うべき」という考えを踏まえると、基本的にはHACCPを導入済みの信頼できる取引先から仕入を行うのが望ましいとも記載されています。
罰則だけではないHACCP未導入のデメリット
HACCP未導入は直ちに罰則が課されるものではありません。しかし、罰則がないからといって導入を後回しにするとさまざまなデメリットが考えられます。
営業許可取得への影響
飲食店営業許可といった衛生関連の営業許可取得時は、保健所によって「衛生管理計画書の策定」がされているかをチェックされる可能性があります。これはつまり、HACCP導入が確認されているということ。現在、飲食店営業許可の要件にHACCPの項目はありませんが、未導入が保健所に知られていることは決して好ましいことではないでしょう。後になってから指導が入る可能性もありますので、早めの対応が望まれます。
取引への影響
前述のとおり、HACCP未導入の企業から仕入およびその食材を使った食品の製造は食品衛生法違反になりません。しかし、HACCPを導入できていないという事実は、取引先からの信頼を低下させる要因のひとつに十分なりえます。
また、国内だけでなく、アメリカやEU、カナダ、オーストラリア、韓国、台湾といった国ではHACCPの義務づけが進められています。もしこれらの国に食品の輸出を行う場合は、HACCPが必須条件になることも考慮しておきましょう。
起業イメージの低下
HACCP制度化により、今後食品事業者のほとんどが「HACCPに基づく衛生管理
」、もしくは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を導入することになります。普及が進むにつれ、HACCP未導入は大きなマイナスイメージとして捉えられるようになるでしょう。取引先はもちろん、一般消費者からの目も厳しくなると考えられます。そのせいで売上が低下する可能性がないとは言い切れません。
まとめ
HACCP導入はそもそも、食品事業者が食品の安全性を高めるために行うものです。未導入ということは、罰則云々ではなく、食品事業者として大きな課題を持っていると考えるべきでしょう。「義務化されたからHACCPに対応する」ではなく、安心・安全な食を消費者へ届け、自社のブランドを向上させることを第一の目標に取り組んでください。