2022.01.17.Mon

HACCPの「危害」とは?

HACCPは、人に健康被害をもたらす「危害要因」を取り除くことが重要な目的です。しかし、この「危害」が漠然としていて何を示すのかよくわからない、という方も多いはず。そこで今回は、食品衛生における「危害」について、詳しく解説します。

食品による危害について

HACCP等で示される「危害」とは、飲食が原因で引き起こされる人への健康被害のことです。症状には軽い腹痛から死亡など、さまざまな重篤性があります。また、集団食中毒など、危害の発生頻度についても考慮しなくてはなりません。

危害を引き起こす原因物質は「危害要因」と定義されます。たとえば病原性微生物はその代表です。こうした危害要因を除去・低減することこそが、HACCPの大きな目的です。

なお、危害要因には生物的・化学的・物理的の3種類があります。以下から、それぞれの特徴について解説します。

生物的危害

原料食材や製造工程等で発生する生物的危害。空気中や水分、動物の皮膚、消化管、食品製造施設などには、目には見えませんが多くの微生物が存在しており、食品事故等の要因になり得ます。種類は多岐に渡りますが、食品衛生においては細菌・カビ・酵母・ウイルス・寄生虫が、生物的危害として扱われています。

 

病原微生物

細菌、原虫、ウイルスには人間に害を及ぼす可能性のある種類が含まれます。それらは肉眼では見えない病原体なので病原微生物と呼ばれます。病原微生物によって発生する危害とは、食品に含まれる病原微生物を飲食することによって発生する感染、感染時に体内で生成される毒素、食品中に含まれる毒素の作用によって健康被害があります。ウイルスは細胞で構成されないので生物ではないと考えることが多くなっていますが、食品衛生や感染症の立場では、人間に感染して増殖するという観点から、病原微生物の範疇に含めることがあります。

カビ・酵母

カビや酵母が人間に感染することは(水虫やたむしなどが)あるものの、食品由来のカビや酵母は感染しません。一部のカビと酵母は有害な毒素を生成するので、汚染や増殖に注意する必要があります。カビが生成した毒素であるカビ毒は次項の化学的危害と分類します。カビは好気性、酵母は通性嫌気性です。

細菌

細菌が生きるためには、必要な栄養素、水、温度を満たす条件が必要です。また、それぞれの細菌に適した酸素濃度が必要です。これらの条件がひとつでも欠けると、細菌は成長・増殖できません。場合によっては死滅する可能性もあります。そのため、冷蔵・冷凍、塩漬けや乾燥などの水分制限によって成長条件が制限されれば、食品の衛生的な保存につながります。

また、細菌には芽胞形成細菌と非芽胞形成細菌の2種類があり、前者については高い耐久性の細胞後続を持ちます。たとえば、100℃で煮沸しても完全に死滅しないようなケースも珍しくはありません。そのため、加熱が不十分な場合は生き残ってしまう可能性があるのです。以下は、食品事故に関連する主な細菌です。

  • サルモネラ
  • カンピロバクター
  • ウエルシュ菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • 腸炎ビブリオ
  • 病原大腸菌
  • エルシニア・エンテロコリチカ
  • セレウス菌
  • ポツリヌス菌
  • リステリア菌
  • 赤痢菌
  • コレラ菌
  • 腐敗微生物(有毒アミンや不快臭物質など)

ウイルス

ウイルス自体は生物であるとは断言できない存在です。しかし、加熱により不活性化するなどの特徴から、食品衛生的には生物的危害に分けられます。

ウイルスには細胞がなく、代謝がありません。そのため、栄養、水分、酸素がなくても存在できます。一方、増殖のためには、特定の生物(キャリア)へ感染し、そこにある物質を利用する必要があります。なお、食品内に存在するウイルスは増殖せず、食品の腐敗や劣化を引き起こすこともありません。

なお、食品の危害要因となるウイルスとしては、ノロウイルスとE型肝炎ウイルスがあります。いずれも重篤な健康被害をもたらす可能性が高く、注意が必要です。

寄生虫

寄生虫の種類は約100種とも言われていますが、そのうち人に感染し危害を与えるのはわずかです。具体的には、アニサキスやクリプトスポリジウムなどが危害要因になり得る寄生虫として知られています。しかし、人に危害を加えないとしても、審美的な問題によって取り除くべきケースもあり得ます。

なお、寄生虫は十分な加熱によって死滅可能です。また、適当な冷凍によっても死滅します。しかしここでも、見た目の部分に考慮して、死骸を取り除くなどの作業が発生するので注意してください。

化学的危害

食品には少なからず化学物質が含まれていますが、適切な管理・使用であれば有害ではありません。一方、使用基準を超えると、健康被害を引き起こす要因なり得ます。

天然化学物質

植物、動物、微生物に由来する化学物質です。毒性物質のほとんどは生物由来となりますが、食品衛生上は化学的危害に分けられます。以下は、天然化学物質の例です。

  • カビ毒
  • ヒスタミン
  • 魚介類の毒
  • 植物毒
  • 食品アレルゲン
  • プリオン

添加・混入化学物質

食品へと意図的に添加される化学物質は、法規定で決められた許容濃度によって扱われます。この濃度を超過するということは、危害の有無以前に違反である、ということです。そのため、原則として危害要因には含まれません。

一方で、偶発的に化学物質が混入してしまうケースは化学的危害に含まれます。たとえば施設内に害虫が発生し、殺虫剤を使った場合などを考えてみましょう。毒性が高いものを使っており、かつその成分が製品へと混入してしまうと、濃度が低かったとしても健康被害につながる可能性があります。

物理的危害

本来的なことを言えば、食品には物理的危害は存在しないとされています。しかし万が一、金属片やガラス片などが食品に混入すると、窒息やケガなど、重大な健康被害を引き起こす可能性が考えられます。健康被害がなかったとしても、消費者からのクレーム要因には十分なり得るでしょう。他の危害同様、事前の対策が求められます。

金属片

食品内に金属片が混入した場合、それを口にした人を傷つけてしまう恐れがあるため、物理的危害として扱われます。たとえばアメリカのFDAの場合、7〜25mmの長さの破片が製品に含まれていた場合は、法的措置が取られるといったケースもあるほど、重要な問題として認識されます。なお、防止対策としては、金属探知機などを導入し、現在食品の生産時や製造工程中に金属片が混入しないかを確認する工程が設けられています。

ガラス片

たとえば工場内でガラス製の照明や器具、もしくはガラス容器などを使用している場合、ガラス片が製品に混入してしまう可能性があります。金属片同様、アメリカのFDAでは7〜25mmの長さのガラス片を危害要因として認定しています。万が一食品にガラス片が混入し、それを人が食べてしまうと、重大な健康被害につながる可能性があるため、必ず防止対策に努めなければなりません。

軟質異物

軟質異物の例としては、ねずみの尾や昆虫、毛髪、糸くずなどが挙げられます。これらは食べてしまっても、重大な健康被害にはつながらないかもしれません。しかし、消費者からすれば不衛生・不快感を覚える要素です。また、見たり触ったりすることで発見できるため、クレームにもなりやすいのが特徴。工場や飲食店への信頼感が大きく失われる原因になり得ます。結果、売上減少などにもつながるでしょう。なお、対策はHACCPというより、その前段階である一般衛生管理で行われます。

まとめ

HACCPにおいて危害要因はもっとも基本的な要素のひとつです。つまり「危害」が何かを知っておくことは、HACCPをより深く理解するのに役立ちます。今回ご紹介した内容を頭に入れておけば、危害要因の洗い出しにも役立つはずです。