2022.04.11.Mon

HACCPにおける従業員の衛生管理と教育

前提として、HACCPの主語は「現場」であることを意識しましょう。どのような計画も、実行が伴わなくては結果を生み出しません。その意味で、HACCP導入における従業員の教育は、なくてはならないものと言えるでしょう。こちらでは、HACCPにおける従業員の衛生管理と教育について解説します。

HACCP導入には従業員の理解が必須

マニュアルを定めてその通りに作業してもらうことはもちろん重要です。しかし、根本として「なぜその作業が必要なのか?」「どうしてこの工程を挟むのか?」といった理解を深める必要もあります。理解は必要な作業を正しく進める上で欠かせません。

かつ、作業を正しく進められなかった場合に、その原因について話し合い、改善策を考えられる環境づくりも求められます。HACCPチームが中心となり、現場でより良い食品衛生に取り組めるよう教育を進めていきましょう。

HACCP導入は従業員の再教育にも効果あり

HACCPでは、前提となる一般衛生管理の見直しが求められます。そのため、従業員に対して食品衛生に関する再教育が行われます。通常業務を進めるなかで、こうした再教育の機会はなかなか設けられません。一度教育を行ったつもりでも、衛生管理が惰性で行われている可能性も十分にあるでしょう。

HACCP導入に伴い一般衛生管理の再教育を行うことは、理解を深めることに役立ちます。結果として、現場の衛生管理レベルが向上し、製品品質の向上も見込めるでしょう。また、教育を行うことで社内コミュニケーションが活性化するという副次的効果も期待できます。

従業員教育におけるポイント

従業員を教育する場合には、目的の明確化と理解増進が重要です。以下で、従業員教育のポイントについて解説します。

5S活動への理解

整理・整頓・清掃・清潔・習慣を示す5Sは、食品を扱う事業者にとってお馴染みの活動です。取り組み自体は特別なものではなく、普段の業務にも採り入れられているはずです。HACCPにおいても、5S活動は基礎になる部分です。これらの取り組みが確実に行われているからこそ、システムが正しく機能します。
ただし、5Sはあまりに「当たり前」となっているため、内容やその目的が正しく認知されていない可能性も考えられます。そこで再教育のタイミングに乗じ、もう一度5S活動の見直しや振り返りを行ってみましょう。
ポイントになるのは、「5S活動はあくまでも手段」であることです。5Sの達成は確かに衛生レベルを高めますが、よりレベルを上げるためには、従業員に対して何が目的であるかをしっかり理解してもらいましょう。
なお、5S活動の主な目的は二次汚染や異物混入の防止です。最終的には、従業員にこの目的を理解してもらい、5S活動を自分ごと化できるよう教育を進めてください。

記録方法の確認

HACCPは記録を重視したシステムです。衛生管理計画では日次の記録表が設けられ、そこに日々の業務を書き込んでいくことで、データを残します。 ただし、受入から出荷までさまざまな工程で記録が行われることもあり、従業員の手間が増えてしまうのは否めません。
しかし、この記録にも大きな意義があります。たとえば食中毒や異物混入などの事故が発生した場合です。その製品がいつ、どのような処理をされたか、どのような温度で保管されていたかが分からないと、原因が究明できません。原因が不明ということは改善もできず、今後同じ事故を引き起こすリスクが放置されてしまいます。
こうした危険性は従業員に対してしっかり教育すべきポイントです。また、単に記録するのではなく、必ず正しい方法を用いることも徹底させてください。
因みに、人手には限界がありますが、当社が提供する温度の自動記録、遠隔監視を行うシステム「ACALA(アカラ)」があれば、冷蔵・冷凍庫の温度や調理加工場の室温湿度、またCCPに設定されるチラー水の水温やボイル煮沸槽の湯温、フライヤーの油温なども自動記録、リアルタイム監視することが可能です。

 

製造手順の確認

作業手順はシステマティックになるほど効率化し、生産性を高めます。ある程度仕組みが完成すれば、あとは流れ作業でも構いません。しかし実際には、効率化を進めたことで起こるリスクも考えられます。
流れ作業を行う従業員からすると、なかには理由が不明瞭なまま行っている手順もあるでしょう。それを省いたとしても、最終的な仕上がりにあまり影響が出ないような工程もありえます。しかし、じつはその作業が製品の安全性を高めるためのひと工夫であった、というケースは往々にしてありえます。
このように、知らず知らずのうちに省かれてしまったり、誤ったやり方が修正されることなく続けられていたりする可能性は、どの製品にもありえることです。基本の内容をもう一度確認しつつ、それぞれの作業の意義についても説きながら教育を進めましょう。

CCPへの理解

HACCPにおいてもっとも重要なポイントのひとつとなるCCP(重要管理点)。導入後には、関連する一連の流れについて従業員に知ってもらうことが大切です。なぜその工程にCCPが設定されたのかの経緯なども踏まえ理解してもらえるよう、丁寧な説明を心がけましょう。

食中毒やアレルゲンについて

食中毒やアレルゲンは危害要因のひとつです。とくにアレルゲンは製造ラインで交差汚染が起こりやすい物質と言えるでしょう。注意が必要な物質であることを周知し、厳重に管理できる環境づくりを進めてください。

注意したい従業員の健康管理・衛生管理

就業する従業員に対しては、健康と衛生の管理を徹底するよう教育します。以下で、おおまかなポイントをまとめます。

体調不良

明らかな体調不良は、ウイルス等への感染が疑われます。
● 下痢や腹痛、発熱、吐き気、嘔吐
● 発熱を伴う喉の痛み
● 鼻水
● 味覚・嗅覚の異常
● 咳
● 倦怠感
上記のような症状のある従業員がいる場合は、責任者へ必ず報告を行うよう指示します。報告を受け取った側は、自宅待機や専門医への受診を促してください。なお、従業員の家族に同様の体調不良者がいる場合も同じ措置を行いましょう。
また、こうしたイレギュラーなケースでは、現場の人間が判断に困る可能性も考えられます。そのため、体調不良者が出た場合のマニュアルを用意し、従業員へ周知する取り組みも進めてください。

手指の傷など

手指は調理など、食品に直接触れる部分です。そのため、衛生管理においてとくに気をつけなくてはなりません。とくに、手指の傷は食中毒菌である「黄色ブドウ球菌」の発生リスクを高めます。
従業員の手指に怪我がある、もしくはひどい手荒れをしているといった場合には、必ず業務に就く前の段階で責任者へ報告し、指示を仰いでください。責任者は傷や手荒れの度合いを確認し、その後の対応を検討します。対策としては、傷の手当てを行った上で手袋を着用させたり、休ませたりしましょう。
なお、就業中に傷を負った場合も同様です。まずは責任者への報告・連絡・相談です。このフローを義務づけるよう、しっかりと教育してください。

作業衣

作業衣の汚れや破れは食品衛生上のリスクになり得ます。就業前に必ず確認し、対策をしてください。
なお、就業中には以下のポイントを踏まえ、衛生を保てるよう心がけます。
● 調理時・業務従事中の服装は衛生面に配慮した専用の作業衣、履物を着用する
● 帽子やヘアネット、手袋を着用する場合は、正しい使用法を確認する
● 時計や指輪など、貴金属、装飾品は外す
● 作業着が汚れてしまった場合は、速やかに交換する
● 作業着を着用したままでトイレに行ったり外出したりしない
● 使い捨て手袋を使用していても、必ず手洗いを実施する
● 手袋は手と相互に汚染しないよう、正しい手順で着脱する
● 作業所には不要なもの持ち込まない
● 専用の更衣室や更衣コーナーを設置する など

個人衛生管理点検記録票への記録

個人の衛生管理を行うには、記録が大切です。チェックポイントを設けた個人衛生管理点検記録表を作り、従業員に対して毎日の点検を指示しましょう。

検便や健康診断の定期実施

1年に1回以上の健康診断を実施しましょう。一定期間・一定時間以上勤務をするパートタイマーについても実施してください。また、定期的な検便は、腸管出血性大腸菌等のリスク低減につながります。

まとめ

従業員の教育はHACCPの導入はもちろん、現場での衛生レベルを高める上で非常に大切です。今回ご紹介した内容を踏まえ、再度教育方法などを見直してみてください。