【早見表付き】食中毒を引き起こす病原微生物の種類と温度管理
食中毒は病原微生物やウイルスが原因となって引き起こされます。これを予防するためには、それぞれの菌やウイルスの特徴を知り、適切な対策を取ることが大切です。そこで今回は、代表的な菌・ウイルスの概要や食中毒予防対策、調理時の温度管理についてまとめました。 ※温度条件は菌の抵抗性を示す目安であり、食品ごとに殺菌条件は異なるため、詳しくは専門書等のデータを必ずご確認ください
サルモネラ
河川や下水、動物の腸管に分布するサルモネラは、通性嫌気性の非芽胞形成細菌です。種類は多岐にわたり、それぞれ病原性が異なる特性を持ちます。肉や鶏卵が汚染源になるケースが多いのですが、実際には野菜などでも食中毒が発生します。症状としては、嘔吐や腹痛、下痢などが主です。また、子どもや高齢者、基礎疾患を持つ成人の場合は重症化する可能性があります。
食中毒予防対策
まずは調理前に食材を洗うなどの下準備が大切です。調理中には二次感染防止のために調理器具を適宜使い分けてください。また、調理後は2時間を目安に早めに食べましょう。そのほか、生食用魚介類については適切な温度で冷蔵保存してください。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
75℃以上 | 1分以上 |
カンピロバクター
カンピロバクターは、わずかな空気で増殖が可能な微好気性の非芽胞形成細菌です。乾燥および、30℃未満の環境に弱いという特徴があります。感染対象は鳥や牛、豚の体内にある細菌です。とくに加熱が足りない鶏肉やレバーが食中毒の原因になりやすい傾向にあります。少量でも発症し、潜伏期間も長いのが特徴。下痢や発熱、嘔吐、筋肉痛といった症状を引き起こします。
食中毒予防対策
もっとも効果的な予防方法は完全な加熱調理です。食肉については中心部までしっかりと熱を通してください。また、不十分な加熱状態で喫食を避けたり、生肉を扱う箸を分けたりといった、食べ方の工夫も大切です。また、調理場では手洗いの徹底や調理器具の使い分け、井戸水や貯水槽の塩素消毒徹底なども予防方法として挙げられます
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
70〜75℃ | 1〜3分 |
ウエルシュ菌
土壌、下水、ほこり、動物の腸などに生息する絶対嫌気性の非芽胞形成細菌です。大量調理された食肉などを、提供するまで適切に加熱・冷却・冷蔵できていないことが原因で食中毒が起こります。酸素濃度が一定まで下がると増殖がはじまります。芽胞が腸内で発芽すると、腹痛や下痢などを発症しますが、重症になることはほとんどありません。
食中毒予防対策
ウエルシュ菌は100℃1〜6時間の加熱にも耐えるという耐熱性があります。そのため、予防方法は適切な調理・保存に尽きます。もしくは、前日調理を避ける、調理後にすぐ食べるなど、放置をしないことも大切です。そのほか、再加熱の場合でも十分に中心部まで加熱を行ったり、二次汚染防止のために洗浄や手洗いを徹底したりといった方法もあります。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
– | – |
黄色ブドウ球菌
人や動物の鼻や喉、毛髪、皮膚などに生息する通性嫌気性の非芽胞形成細菌です。なお、空気やゴミ、下水などからも検出されます。黄色ブドウ球菌は耐塩性があり、食塩15%の環境でも増殖が可能です。主な症状は嘔吐や複数、血性下痢、発熱です。
食中毒予防対策
黄色ブドウ球菌は通常の調理や殺菌で死滅します。一方で、素手で直接触った食品(おにぎりや弁当など)が原因になるケースも多いため、手洗いと消毒がもっとも重要になります。また、食品を素手で触ったり、手指にケガがある場合は調理を行わなかったりといった工夫も必要です。その他、マスクや帽子の着用も徹底しましょう。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
60℃〜80℃ | 30分以上 |
腸炎ビブリオ
河口と沿岸水域に多く清掃する通性嫌気性の非芽胞形成細菌です。6〜10月の温かい季節に増加し、魚介類を汚染します。また好塩性であり、2〜5%の塩分がある環境で増殖するのも特徴です。こうした背景もあり、腸炎ビブリオは魚介類を介して食中毒を引き起こす傾向にあります。増殖スピードは非常に早く、潜伏期間も短めです。国内における45〜60%の食中毒は、腸炎ビブリオが原因とも言われます。なお、主な症状は腹痛や下痢、嘔吐、発熱です。
食中毒予防対策
腸炎ビブリオは真水に弱いため、まずは調理前にしっかりと洗浄を行いましょう。その後、完全な加熱処理を行うほか、二次防止のために調理器具の使い分けも重要です。なお、低温で保存することで、増殖を抑えられるため、食材の保管方法にも気を配りましょう。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
60℃ | 10分以上 |
病原大腸菌
人や動物の消化管に存在する通性嫌気性の非芽胞形成細菌です。ただし、大腸菌の多くは有用であり、病原性はありません。しかし、一部の病原大腸菌については腹痛や下痢、血便などの症状に発展します。なお、腸管出血性大腸炎として有名なのがO157です。汚染されがちなのは牛で、潜伏期間も長い傾向にあります。
食中毒予防対策
食中毒防止でもっとも大切なのは、中心部までの十分な加熱です。さらに、食肉のレバー(肝臓)は食べないようにしたり、密閉状態で冷蔵庫に保管したりといった方法が挙げられます。その他、調理場等の衛生環境保全や手洗いの徹底にも気を配りましょう。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
75℃ | 1分以上 |
セレウス菌
食中毒予防対策
好気性の芽胞形成細菌で、土壌や野菜、穀物などに生息します。症状は嘔吐と下痢に分かれますが、日本では後者が一般的です。これは、セレウス菌が生成するペプチドが原因と考えられます。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
– | – |
ボツリヌス菌
偏性嫌気性の芽胞形成細菌です。自然界に広く分布しており、通常の加熱では死滅しません。また、真空包装の環境下で増殖する場合があります。そのため、缶詰食品やレトルト食品で発生するケースが多い傾向にあります。食中毒の症状としては、下痢や嘔吐、腹痛のほか、重篤化すると筋肉組織の麻痺がはじまり、最悪の場合死に至る可能性もあります。なお、ボツリヌス菌にはいくつか種類があり、それぞれに特徴が異なります。
食中毒予防対策
食品は気密性の容器に詰め、十分に加熱殺菌を行いましょう。また、摂取前にも合わせて加熱することが大切です。また、保存時は低温環境を徹底してください。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
120℃ | 4分以上 |
ノロウイルス
最後に、微生物ではありませんが、食中毒の原因に多いノロウイルスについてもご紹介します。ノロウイルスは人の腸でのみ増殖する特性があり、感染性が高いのが特徴です。症状は吐き気や嘔吐、下痢、発熱です。生カキなどの二枚貝や、二次汚染された食品・飲料水が原因として多い傾向にあります。
食中毒予防対策
予防方法は、第一に食品取扱者の健康管理です。ノロウイルスのキャリアを厨房等に入れないよう、健康面についてチェックを行いましょう。また、作業前・中・後の手洗いについても徹底してください。
調理時の温度管理
加熱温度 | 加熱時間 |
---|---|
85〜90℃ | 90秒以上 |
温度管理早見表
最後に、本日ご紹介したウイルス・細菌の加熱温度・加熱時間をまとめた早見表を掲載します。工場や厨房などで、ぜひご利用ください。
病原微生物・ウイルス | 加熱温度 | 加熱時間 |
サルモネラ | 75℃以上 | 1分以上 |
カンピロバクター | 70〜75℃ | 1〜3分 |
ウエルシュ菌 | – | – |
腸炎ビブリオ | 60℃ | 10分程度 |
病原大腸菌 | 75℃ | 1分異常 |
セレウス菌 | – | – |
ボツリヌス菌 | 120℃ | 4分以上 |
ノロウイルス | 85〜90℃ | 90秒以上 |
なお、食中毒の防止に有効な中心温度の測定は、記録も大切です。当社では、無線接続で計測温度を記録できる芯温計「ACALA FT」をご提供しております。食中毒防止および、適切な温度管理に役立つソリューションとなっておりますので、衛生管理に取り組む食品事業者の方は、ぜひ一度導入をご検討ください。