

食中毒を防ぐ冷却時の温度管理

食中毒の予防を目的とした温度管理では、加熱工程が重要視される傾向があります。しかし、温かい状態で提供しない食品や調理後時間が経ってから提供される食品は、冷却工程も見逃せないポイントです。きちんと加熱調理できていても、冷却工程の温度管理が十分でなければ食品事故が発生する可能性があります。 加熱調理後の冷却が重要な理由を理解して、現場で適切に食品を冷却できているか確認しましょう。
食品衛生における温度管理の重要性
食品の温度管理は、食中毒の予防において非常に重要です。食中毒は、食中毒菌に汚染された食品を摂取することで引き起こされます。食品製造の現場では、消費者へ安心安全な食を提供するために温度管理の徹底に努めなければなりません。
食中毒の予防には、食品衛生の3原則「付けない、増やさない、やっつける」が有効です。「付けない」は食品に食中毒菌を付着させないこと、「増やさない」は食品に付着した食中毒菌を増殖させないこと、「やっつける」は食品中の食中毒菌を死滅させることを意味します。なかでも、「増やさない」と「やっつける」の実践には温度管理が不可欠です。
食品に食中毒菌が付着したとしても、増殖を抑制できれば食中毒の発生を阻止できます。食中毒菌の増殖には、栄養・水分・温度という3つの条件がそろうことが必要です。食品には栄養と水分が十分にあるため、食中毒菌の増殖を抑制する温度管理が求められます。細菌の多くは、10℃以下の環境に置くと増えにくくなります。
さらに、食中毒菌の死滅には加熱が効果的です。厚生労働省による「大量調理施設衛生管理マニュアル」では、食品の中心部を75℃以上で1分間以上の加熱、二枚貝などノロウイルス汚染の恐れがある食品は、85〜90℃で90秒間以上の加熱が推奨されています。十分に加熱できていなければ、生き残った食中毒菌が増殖して食中毒が発生する恐れがあります。
加熱後の冷却も重要
食中毒を予防するための温度管理では、冷却工程も見逃せません。加熱後に冷却が必要な食品において適切な温度管理ができていなければ、加熱が十分であっても食中毒が発生する恐れがあります。
食品の加熱後に冷却が必要な理由と、冷却時のポイントを確認しましょう。
加熱後の冷却が重要な理由
食中毒菌の中には、加熱しても死滅せず、加熱後の温度管理によっては活性化して増殖するものが存在します。その代表といえる食中毒菌が、セレウス菌とウェルシュ菌です。
セレウス菌とウェルシュ菌には、芽包(がほう)を作るという共通点があります。芽包とは耐熱性の殻のようなものであり、100℃で30分加熱しても芽包は分解されません。したがって、食品を十分に加熱したとしても、セレウス菌とウェルシュ菌は芽包を形成して生き延びている可能性があります。
食品の温度が下がると芽包は発芽し、細菌が増殖を始めます。しかし、食品を素早く冷却して食中毒菌の発育を抑える温度帯に保てていれば、セレウス菌とウェルシュ菌の増殖を阻止できるでしょう。
また、加熱後の食品に食中毒菌が混入することも考えられます。この場合も、食品が加熱後速やかに冷却されていれば、細菌の増殖を防いで食中毒の発生を予防できるでしょう。
「大量調理施設衛生管理マニュアル」の主な重要管理事項の中にも、「調理後の食品の温度管理を徹底すること」と記載されています。加熱した食品でも食中毒が起こる可能性はありますが、加熱後の冷却を適切に行うと食中毒のリスクは大きく低下します。
冷却のポイント
食品を適切に冷却するポイントは、加熱後30分以内に食品の中心温度を20℃付近、または加熱後60分以内に中心温度を10℃付近まで下げることです。
10〜60℃は、細菌が活発に増殖する危険温度帯と呼ばれています。したがって、食品の冷却では、この危険温度帯を素早く通過させることが重要です。冷却が必要な食品は、ポテトサラダのように加熱調理後に冷たい状態で提供する食品、カレーやシチュー、スープ、ソースなど加熱調理後に一度冷却し、再度温めて提供する食品が該当します。
冷却が必要な食品は適切に温度管理し、できる限り短時間で食中毒菌の増殖を抑えられる温度にしましょう。
食品の効率的な冷却方法
食品を冷却する際には、以下のような方法が用いられます。
- 小分け冷却
- 送風冷却
- 流水冷却
- 真空冷却
次から、それぞれの方法について詳しく解説します。
小分け冷却
小分け冷却とは、加熱後の食品を小さな容器に小分けにして冷ます方法です。カレーやスープなどを調理した大鍋のまま置いておくと、温度が下がるまでに時間がかかり、食中毒菌が繁殖しやすくなります。しかし、食品を小分けにすると早く温度を下げられます。他の冷却方法と組み合わせると、より効率的に温度を下げられるでしょう。
送風冷却
送風冷却とは、食品に風を当てて冷却する方法です。送風冷却を用いる場合、空気が汚染されていないことが条件となります。
食品に冷気を当てて温度を下げる方法も、送風冷却に分類されます。食品製造の現場で多く利用されているのが、ブラストチラーです。ブラストチラーは、食品の急速冷却や急速冷凍に特化した機器です。あらかじめ低温に設定された庫内に食品を入れて、冷気を吹きかけることで食品の温度を低下させます。
冷凍冷蔵庫は、すでに冷えている食品の保存に適しています。そのため、加熱直後の食品を収めると機器に負担をかけてしまう上に、冷却効率もあまりよくありません。一方で、ブラストチラーは食品の冷却に特化しており、まだ熱い食品を入れてもしっかりと温度を下げられます。
しかし、ブラストチラーでは食品の表面に冷気を当てる仕様上、食品によっては冷却に時間がかかる場合があります。表面温度と中心温度に差が見られるため、きちんと冷却されているか温度を計測することが大切です。
流水冷却
流水冷却とは、流水を当てて食品を冷却する方法です。流水冷却を用いる際は、水が清潔であることが前提となります。
流水冷却では水道水のほか、ウォーターチラーが利用される場合もあります。ウォーターチラーは、低温の水を供給できる機器です。水道水では、気温が高い時期に水温が上がり、冷却効率が低下する問題があります。しかし、ウォーターチラーであれば低温の水を安定的に供給できるため、食品を素早く冷却できます。
真空冷却
真空冷却とは、食品を真空状態に置いて急速に温度を下げる方法です。真空状態になると、食品中の水分が沸騰して蒸発します。その際、気化熱により食品の熱が奪われて温度が下がる、という仕組みです。
真空冷却では、食品全体の温度を均一に下げられる、ブラストチラーよりも短時間で冷却できるなどのメリットがあります。また、冷却時に細菌が付着するリスクが少なく衛生的に冷却できる、真空状態に置くと食品に味がしみ込みやすくなるといった効果も期待できるでしょう。
一方で、柔らかい食品や液体の冷却は困難であること、水分が蒸発するため食品の歩留まりが低下する可能性があることなどが真空冷却のデメリットに挙げられます。
まとめ
食中毒を防ぐには、加熱と同様に冷却工程も重要です。ブラストチラーや真空冷却機などの機器を使用しても、適切に冷却できているか温度計を用いて測定し、安全性を確かめましょう。計測した温度を記録に残しておけば、温度管理を行っている証拠にもなります。
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