【HACCPとISO】違いを5分で解説!現場の負担を減らしISO22000へ移行する5ステップ
日々、食品の安全を守るために奮闘されている品質管理ご担当者の中には、ISO取得における新たな課題に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。 本記事では、HACCP(ハサップ)とISO22000の根本的な違いや、HACCPの運用、ISO22000の認証取得のステップまでわかりやすく解説します。 現在の現場の負担を増やさず、むしろ日々の記録業務を効率化しながら、スムーズに国際規格へステップアップするための秘訣までお伝えします。 企業の価値をさらに高めるためにも、ぜひご一読ください。
【結論】HACCPとISOの違いとは?全体像と関係性
結論から言うと、HACCPが個別の製品の安全を守るための具体的な「手法」であるのに対し、ISO22000はHACCPの考え方に沿って、組織全体で食品安全を管理・改善し続けるための「仕組み(マネジメントシステム)」です。
この章では、両者の関係性をわかりやすく整理し、目的や範囲などの具体的な違いを比較して明確にします。
HACCPとは?個別の食品衛生を管理する「手法」
HACCPとは、食品の製造工程における危害要因(食中毒菌など)を分析し、特に重要な工程(CCP:重要管理点)を継続的に監視・記録することで製品の安全を確保する「衛生管理の手法」です。
危害要因分析と重要管理点の詳細は以下の通りです。
- 危害要因分析(HA):食材に食中毒菌が付着している可能性はないか、調理器具は汚れていないか、といったリスクを洗い出す。
- 重要管理点(CCP):特に重要な工程(例:食肉の加熱工程)を特定し、「中心温度75℃で1分以上」といった具体的な管理基準を設定して監視・記録する。
HACCPは「7原則12手順」という決められた手順に従い、具体的な作業レベルでの安全を管理するアプローチです。完成品を検査するのではなく、工程の段階でリスクを管理する「予防」に重点を置いています。
2021年6月からは、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が制度化され、必須となっています。
ISO22000とは?食品安全を組織で管理する「仕組み」
ISO22000とは、食品の安全を確保するための組織的な「仕組み(マネジメントシステム)」を定めた国際規格です。前述したHACCPの手法を包含し、さらに経営層の責任や組織全体の継続的な改善活動(PDCAサイクル)までを要求している点が特徴です。
- マネジメントシステムの要素:経営者の責任、方針・目標設定、従業員の力量管理、内部コミュニケーション、緊急事態への備え、内部監査など、組織運営に関する幅広い要求事項が含まれます。
- HACCPとの関係:「HACCP」を正しく運用するために、シェフ(経営者)が責任を持ち、スタッフ教育や厨房の衛生管理(前提条件プログラム)、クレーム対応のルールなどを定めて全体を運営するイメージ。
いくら現場で優れたHACCPの手法を実践していても、それを支える組織の体制が脆弱では、継続的な食品安全は保証できません。
ISO22000は、経営層の関与、従業員への教育、緊急時の対応ルールなどを定め、組織全体のリスクを管理し、継続的に改善していく枠組みを提供するために策定されました。
【比較表】HACCPとISO22000の5つの違い
HACCPとISO22000の違いを、より明確に理解するために5つのポイントで比較してみました。
| 比較項目 | HACCP | ISO22000 |
| 位置づけ | 食品安全を確保するための「手法」 | HACCPを含む食品安全の「仕組み(マネジメントシステム)」 |
| 目的 | 製造工程における危害要因の管理・低減 | PDCAサイクルによる継続的な改善と仕組みの構築 |
| 適用範囲 | 主に食品の製造工程が中心 | 原材料の調達から消費までフードチェーン全体と組織運営 |
| 要求事項 | 7原則12手順に基づく衛生管理 | HACCPに加え、経営者の責任、文書管理、内部監査など組織全体への要求 |
| 認証 | 制度化により導入は必須だが、第三者認証は任意 | 第三者認証機関による審査・登録が一般的で、国際的な証明となる |
上記の表での比較より、HACCPが「現場」の視点であるのに対し、ISO22000は「経営」の視点も加わった、より包括的なものであることが理解できるでしょう。
HACCPからISO22000へ移行・取得するメリットと注意点

HACCPとの違いを理解した上で、次に考えるべきは「ISO22000を取得すべきか」という点です。
この章では、ISO22000の取得により得られる「取引先からの信頼性向上」や「販路拡大」といった具体的なメリットを解説します。
同時に、認証取得にかかる費用や維持していく上での注意点にも触れることで、自社にとって本当に必要かを判断しましょう。
取引先に評価される!ISO22000を取得するメリット
ISO22000の取得は、食品安全管理体制が国際基準を満たしていることの客観的な証明となり、企業の信頼性を飛躍的に高めます。それによる、国内外の販路拡大や企業価値の向上といった、具体的なメリットも大きいです。
ISO22000を取得することで、主に以下の3つのメリットが期待できます。
1.社会的信用の獲得と販路拡大
- 大手企業や海外との新規取引が有利に進む
- 自社ウェブサイトや製品パッケージに認証マークを掲載でき、消費者への安全アピールにつながる
2.社内の食品安全意識の向上
- 経営層から現場スタッフまで、全社で食品安全に取り組む文化が醸成される
- ルールが明確化されることで、従業員の判断基準が統一され、ヒューマンエラーが減少する
3.業務プロセスの標準化と効率化
- 責任と権限が明確になり、問題発生時の対応が迅速化する
- 継続的な改善(PDCA)の仕組みが定着し、生産性の向上や無駄の削減につながる
ISO22000の取得は、企業の成長を加速させる「投資」と捉えることができます。特に、今後の事業拡大を視野に入れている企業にとっては、強力な競争優位性となるでしょう。
取得前に知っておきたい注意点
多くのメリットがある一方、ISO22000の取得と維持には、相応のコストと労力が必要になるという現実も理解しておくことが大切です。
事前にこれらの注意点を把握し、十分な準備をすることが、形骸化を防ぎ、認証取得を成功させるための鍵となります。
具体的に注意すべき点は、主に以下の2つです。
1.認証取得と維持にかかる費用を把握しておく必要がある
- 初期費用:コンサルティング費用、審査機関への登録・審査費用など
- 維持費用:毎年の維持審査(サーベイランス審査)や3年ごとの更新審査費用
2.継続的な運用にかかる人的リソースが必要になる
- 文書や記録の作成・管理、内部監査員の育成と実施、マネジメントレビューの開催など、認証を維持するための活動に継続的に人員を割く必要がある
- 担当者だけでなく、経営層から現場まで、全社的な協力体制が不可欠
ISO22000を取得し、認証を維持するためには、毎年または3年ごとに審査を受ける必要があり、継続的な運用が求められます。
まずは自社の予算や人員を考慮し、現実的な計画を立てることから始めてみましょう。
HACCPからISO22000へ!認証取得までの具体的な5ステップ
「ISO22000を取得する」と決断しても、何から手をつければ良いのかわからない、という方も多いでしょう。
この章では、HACCP運用中の企業がISO22000を取得するまでを、具体的な5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:現状分析と計画策定
最初のステップは、自社の現状を正確に把握し、ゴールまでの現実的な計画を立てることです。ここでしっかりとした土台を築けるかどうかが重要になります。
このステップで実施すべきことは、以下の通りです。
- キックオフ宣言:ISO22000取得を目指すことを宣言し、目的を共有する
- プロジェクトチームの結成: 部門横断で担当者を選出し、責任者を任命する
- ギャップ分析: ISO22000の要求事項と、現在の自社のルールやHACCPの運用状況との差(ギャップ)を洗い出す
- 全体スケジュールの作成: 認証取得の目標時期を定め、各ステップの期間やタスクを盛り込んだスケジュールを作成する
特に重要なのが「ギャップ分析」です。現在のHACCP運用でできていること、できていないことを明確にすることで、今後のタスクが具体化します。この段階で無理のない、現実的なスケジュールを立てることを心がけましょう。
ステップ2:システムの構築と文書化
ステップ1で明確になった課題に基づき、ISO22000の必要要件を満たすための具体的なルール(マネジメントシステム)を構築し、文書化していく段階です。このステップは、認証取得活動の中核となります。
構築・文書化すべきものの代表例は、以下の通りです。
- 食品安全方針・目標の設定: 経営者が、会社の食品安全に対する姿勢を「方針」として定め、それに基づいた具体的な「目標」を設定する
- 文書体系の整備: 最上位に「食品安全マニュアル」を置き、その下に具体的な手順を定めた「規定書」や、作業内容を記した「手順書」、日々の活動を記録する「記録様式」などを体系的に整備する
- HACCPプランの見直し: 既存のHACCPプランを、ISO22000の要求事項に沿って見直し、必要に応じて修正する
自社の実態に合った、運用可能なルール作りを目指すことが重要です。現場の意見を積極的に取り入れながら、実用的な文書を作成していきましょう。
ステップ3:システムの運用
ステップ2で構築した仕組みとルールを、実際に社内で動かしていく段階です。
このステップでは、主に以下の活動を行います。
- ルールの遵守と記録の実施: 全従業員が作成された手順書に基づいて作業を行い、必要な記録を正確につけていく
- 内部監査の実施: 自社のルールが正しく守られているか、有効に機能しているかを、社内の監査員がチェックする
- マネジメントレビューの実施: 内部監査の結果などを基に、経営層がシステム全体を見直し、改善の指示を出す
運用を開始すると、必ず「ルールが現状に合わない」「記録が面倒」といった問題点が出てきます。それらを一つひとつ見つけて改善していくことこそが、ISOの目的である「継続的改善」の実践です。PDCAサイクルを回すことを意識して取り組みましょう。
ステップ4.受審
構築・運用してきた食品安全マネジメントシステムが、ISO22000の規格に適合しているかを、第三者の審査機関に評価してもらう段階です。審査は通常、2段階に分けて実施されます。
- 第一段階審査(文書審査):作成したマニュアルや規定書などの文書が、ISO22000の要求事項を漏れなく満たしているかが中心に審査される
- 第二段階審査(実地審査):審査員が実際に工場などを訪問し、ルール通りに現場が運用されているか、記録は適切に残されているかなどをチェックする
審査では、ルールに適合していない点が指摘されることがあります。しかし、指摘された箇所を是正し、改善する計画を提出することで、認証取得へと進むことができます。
まとめ
本記事では、HACCPとISO22000の根本的な違いから、ISO22000認証取得のメリット、認証までの具体的な5ステップについて解説しました。ISO22000の取得は、貴社の食品安全レベルを国際標準に引き上げ、継続的な業務改善を促すための「未来への投資」です。そして、移行プロセスは、現在の非効率な業務を見直すチャンスでもあります。
まずは現場の負担が最も大きい「温度管理記録」の自動化から検討してみてはいかがでしょうか。
当社の温度管理システム「ACALA」は、記録業務の負担を劇的に削減し、ヒューマンエラーを防ぎます。収集された正確なデータは、HACCPやISO22000が求める要求事項をクリアする上で、強力な武器となるはずです。
現場の課題解決から、国際規格の認証取得まで力強くサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
