温度計の誤差とは?基本概念の理解と適切な構成・見直しが重要
食品の安全管理において、温度計による正確な温度測定は不可欠です。しかし、「測った温度が本当に正しいのか不安」「どうして誤差が生じるのか分からない」といった悩みを持つ担当者も多いのではないでしょうか。 実は、どんなに高性能な温度計でも誤差や器差は避けられません。重要なのは、誤差や器差の原因を理解して、温度計の精度を維持するために適切な管理と対策を行うことです。 本記事では、温度計の「誤差」「器差」「校正」「測定精度」といった基本概念を深く掘り下げながら、種類別の誤差の原因、誤差や器差を最小限に抑え、信頼性の高い温度管理を実現するための校正方法を詳しく解説します。 食品衛生の現場において、自信を持って温度管理を行うための解決法をお伝えしますので、ぜひご一読ください。
温度計の測定における基本概念
この章では、温度計による測定の信頼性を理解するために不可欠な「誤差」「器差」「校正」「測定精度」の4つの基本概念を解説します。
誤差とは?種類と発生要因
誤差とは、測定値と真の値とのずれを指します。誤差には、一定方向に偏る「系統誤差」、予測が難しい「偶然誤差」、読み取りのミスによる「読み取り誤差」など複数の種類があります。これらは温度計の構造的要因だけでなく、使用環境や操作方法など複合的な要因によって生じるため、完全に排除することは原理的に困難です。
誤差は主に以下の種類に分類されます。
- 系統誤差(組織的誤差):同じ条件で測定を繰り返すと、常に同じ方向に偏って生じる誤差
- 偶然誤差(ランダム誤差):測定時のわずかな気流の変化やノイズなど、予測できない要因によって生じるばらつき。測定のたびに値が変動するため、完全に取り除くことは困難
- 読み取り誤差:アナログ温度計の目盛りを斜めから読んでしまったり、デジタル表示の最終桁を読み間違えたりする人的な誤差
自社の温度管理において、どのような種類の誤差が影響しているかを理解することが、正確な測定に繋がります。特に系統誤差は、管理次第で改善できる重要なポイントです。
器差とは?温度計固有のばらつき
器差とは、温度計が製造された時点から持っている個体固有の誤差のことです。同じメーカーの同じ型番の製品であっても、一台一台、器差は異なります。
器差は、センサー素子の特性のわずかなばらつきや、製造上の組み立て精度、使用に伴う経年劣化など、個々の温度計が持つ避けられない特性によって生じます。
例えば、新品の温度計を2本購入し、同じ場所を測定しても表示が「25.1℃」と「25.3℃」のように微妙に異なるのは、それぞれの器差が違うためです。
「器差」を正確に把握するための作業が「校正」です。自社の温度計がどれだけずれているかを知ることで、測定値を補正し、より信頼性の高い温度管理が可能になります。
測定精度を理解する
測定精度とは、測定値が「真の値」にどれだけ近いかを示す総合的な指標です。これは「正確さ(真度)」と「精密さ(再現性)」という2つの異なる概念から成り立っています。
ただ測定値のばらつきが小さいだけでは、真の値から大きくずれている可能性があり、逆に測定値の平均が真の値に近くても、ばらつきが大きいと一回ごとの測定値は信頼できません。
自社の品質管理基準を満たすためには、どの程度の測定精度を持つ温度計が必要かを理解し、適切な機器の選定と管理を行うことが大切です。
種類別|温度計の誤差の原因

この章では、主要な温度計の種類ごとに、測定誤差が生じる具体的な原因を解説します。
デジタル温度計においてはセンサーの劣化や電子回路の不具合、設置環境の影響を、ガラス温度計では製造時の精度や経年変化、読み取り誤差を、表面温度計では接触不良や放射率の設定ミスといった特有の要因を深掘りします。
それぞれの誤差の原因を理解することで、使用している温度計の特性に応じた適切な取り扱いと対策を講じ、測定精度の向上に繋げましょう。
デジタル温度計の誤差でよくある3つの原因
デジタル温度計の誤差の主な原因は以下の3つです。
- センサーの経年劣化
- 電子回路の不具合
- 不適切な設置環境
デジタル温度計は精密な電子部品で構成されているため、時間の経過による部品の性能変化や、熱・水分・電磁波といった外部環境からの影響を受けやすくなります。
デジタル温度計は、定期的な電池交換や動作確認はもちろん、設置場所が適切であるかの見直しにより精度を維持することが重要です。
ガラス温度計(水銀・アルコール)の誤差が起きる理由
古くから使われているガラス温度計の誤差の主な理由としては、以下のことが挙げられます。
- 製造時の精度限界
- ガラスの経年変化
- 読み取り時の視差(人的誤差)
- 液切れ
ガラス管の太さや目盛りの刻印には製造上のばらつきがあり、またガラス自体が時間とともにわずかに収縮する性質を持つことが誤差を生む理由のひとつです。さらに、目盛りの読み方という人的な要因も誤差に影響します。
ガラス温度計を使用する際は、液切れがないかを確認し、必ず目盛りの真横から水平に読み取る習慣を徹底することが、誤差を最小限に抑える上で重要です。
表面温度計特有の誤差要因
食品の中心温度測定などに使われる表面温度計の誤差は、「不十分な接触状態」や「放射率の誤設定」といった特有の要因によって生じます。
接触式の場合はセンサー先端と測定対象がしっかり密着していないと正確な熱が伝わりません。また、非接触式(放射温度計)の場合は対象物から放出される赤外線エネルギーを正しく捉えられないと、測定誤差につながります。
表面温度計を使用する際は、接触式ならしっかりと押し当てる、非接触式なら測定対象の材質に合わせて放射率を設定し、適切な距離から測るなど、それぞれの特性に合わせた正しい使い方を徹底しましょう。
温度計校正のやり方と実施頻度
この章では、温度計の精度を維持するために不可欠な「校正」の目的を解説します。
さらに、現場で手軽に実施できる氷水を使った0℃校正、沸騰水を使った100℃校正の手順から、より信頼性の高い基準温度計との比較校正まで、具体的な方法をステップバイステップで説明します。
校正とは?測定値の信頼性を確保する作業
校正とは、使用している温度計の示す値と、より正確な基準となる温度計の示す値とを比較し、その差(器差)がどのくらいあるかを確認する作業です。温度計の校正は、日々の温度測定の信頼性を確保するために欠かせません。
温度計は経年劣化などにより、徐々に示す値がずれてくることがあります。定期的に校正を行い、そのずれの大きさを把握・記録することで、測定値の信頼性を客観的に証明し、常に正確な温度管理を維持することが可能です。
校正の主な目的は以下の通りです。
- 器差の定量的把握:温度計がどれだけずれているかを数値で明確にする
- 測定値の信頼性確保:校正された温度計で測定することで、値の信頼性を保証する
- トレーサビリティの確立:国家標準や国際標準などの上位の基準に繋がっている証明。これはHACCPやISOなどの認証において重要な要素
校正は単なる「点検」ではなく、自社の品質管理体制の根幹を支える重要なプロセスです。これから紹介する具体的な手順を参考に、ぜひ社内での校正の仕組みを構築・見直してみてください。
氷水を使った0℃校正の手順
最も手軽で基本的な校正方法が、氷と水が共存する状態(氷水)を利用した0℃の定点校正です。
純粋な水であれば、氷と水が共存して平衡した状態では、理論上その温度は0℃に極めて近い値となります。適切な氷水比率や純水の使用により、実務上十分に基準点として利用できます。
正しい0℃校正の手順は以下の通りです。
- 準備:保温性の高い容器に、砕いた氷をたっぷりと入れる。
- 注水:氷の隙間を埋めるように、冷水をゆっくりと注ぐ。氷が少し浮くくらいの量が目安。
- 攪拌と静置:清潔な棒で氷水をゆっくりと1分ほどかき混ぜ、温度を均一にする。その後、3分以上静置する。
- 測定:校正したい温度計のセンサー部分を、容器の中央付近かつ底や側面に触れない位置に挿入し、表示が安定するまで待つ。
- 記録:安定した表示値を記録。この時の表示が「0℃」からどれだけずれているかが、その温度計の0℃における誤差となる。
この校正方法は、冷蔵帯の温度管理に使用する温度計のチェックに有効です。定期的にこの0℃校正を実施し、結果を記録する習慣をつけましょう。
沸騰水を使った100℃校正の手順
高温域の精度を確認するためには、水の沸点を利用した100℃の定点校正が有効です。
標準大気圧(1013.25hPa)下で、純粋な水が沸騰しているときの温度はおおよそ100℃となるという物理現象を利用します。これにより、加熱調理などで使用する温度計の精度を確認できます。
100℃校正の注意点と手順は以下の通りです。
- 準備:深さのある鍋に十分な量の水を入れ、加熱して沸騰させる。
- 測定:水がグラグラと活発に沸騰している状態で、校正したい温度計のセンサーを蒸気に当てないようにお湯の中に挿入する。この時、鍋の底や側面にセンサーが触れないように注意する。
- 記録:表示が安定したら、値を記録する。
- 気圧補正:沸点は気圧の影響を受ける。標高が高い場所や気圧が低い日は、沸点が100℃より低くなる。より正確な校正を行うには、その日の気圧を調べ、沸点の補正計算を行う必要がある。(ただし、一般的な厨房での確認では100℃を目安としても問題ない場合が多い)
この100℃校正は、やけどに十分注意して実施してください。加熱調理用の中心温度計などは、この100℃校正を定期的に行うことで、安全な加熱管理の信頼性を高められます。
校正済み基準温度計との比較校正
より実践的で信頼性の高い校正方法は、トレーサビリティが確保された「基準温度計」と、日常的に使用する温度計の値を直接比較する方法です。
0℃や100℃といった特定の温度だけでなく、冷蔵(5℃)、温蔵(65℃)など、実際に管理したい温度域での誤差を正確に把握できます。
比較校正の具体的な手順は以下の通りです。
- 準備:外部の専門機関で定期的に校正された、証明書付きの「基準温度計」を1本用意する。また、温度が安定しやすい恒温槽などの容器を準備。
- 測定:基準温度計と、校正したい温度計のセンサーを、できるだけ近い位置に並べて1の容器に入れる。
- 比較と記録:容器内の温度を安定させ、両方の温度計の表示が落ち着いたら、それぞれの値を同時に読み取り記録する。基準温度計の値が「真の値」となり、その差が使用温度計の誤差となる。
- 複数点での実施:必要に応じて、管理している複数の温度帯で同様の比較を行う。
社内に信頼できる「基準温度計」を1本備えておくことで、日常的な温度計の精度管理レベルが向上します。
年に1回、基準温度計を外部校正に出し、その基準器を使って社内の温度計をチェックする運用フローの構築をおすすめします。
まとめ
温度計の誤差や器差は避けられないものですが、原因を理解し、適切な校正と管理を行うことで、測定の信頼性を高めることができます。特にHACCP義務化の時代においては、精度の高い温度管理は企業の信頼を守るうえでも重要な要素です。
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