2025.06.03.Tue

食品製造業における食品ロス対策|3つの具体的な方法を紹介

食品ロスの削減は、食品製造業における重要な課題のひとつです。SDGsのターゲットに掲げられて注目を集めている一方で、国内の食品ロスの4分の1は食品製造業で発生しており、早急な対策が求められています。本記事では、食品製造業で取り組める食品ロス対策として「フードバンク活動」「フードシェアリング」「IT技術の活用」の3つをご紹介します。

フードバンク活動

フードバンク活動とは、品質には問題ないものの一般に流通させることが難しい食品を、福祉施設などに無償提供する活動を指します。フードバンク活動の概要を解説し、ニチレイフーズでの事例を紹介します。

フードバンク活動とは

食品製造業では、包装の破損や印字ミスなどにより、一般に販売できない規格外品が発生します。これらの食品を、フードバンク団体を通じて福祉施設や貧困世帯などに無償で提供する取り組みを「フードバンク活動」と呼びます。

フードバンク活動は、1967年にアメリカで開始されました。日本でも2000年以降にフードバンク団体が設立され、2024年には270以上の団体が活動を展開しています。

事業者が食品を寄贈する際に気になるのが、食品衛生やトレーサビリティです。食品の取り扱いが悪く、提供先の施設で健康被害が起きるようであれば、事業者も安心して食品を引き渡せません。

そこで、2024年に「食品寄附ガイドライン」が策定されました。このガイドラインでは、トレーサビリティの記録と保存、食品の保管時や提供時の衛生管理、事故発生時の対応などが定められています。食品製造業者だけでなく、フードバンク団体や協力組織もガイドラインに沿って活動することで、安心安全な食品提供を実現できるでしょう。

参考:食品寄附等に関する官民協議会「食品寄附ガイドライン~食品寄附の信頼性向上に向けて~」

食品製造業での事例

冷凍食品の製造で知られる「ニチレイフーズ」は、2005年からフードバンク活動を行っています。

同社では、箱が傷ついて販売できない食品や未開封のサンプル品などをフードバンク団体に提供しています。以前は、箱が破損すると新しい箱に入れ替えて流通させていましたが、作業が追いつかず、一部の食品を破棄せざるを得ない状況でした。しかし、フードバンク団体への寄付を通じて、食品ロスの削減と社会貢献を実現しています。

同社がフードバンク活動を開始するにあたり課題と考えていたのは、食品の適切な取り扱いでした。かつては廃棄予定の食品が無断転売される問題が発生していたため、同社はフードバンク団体と詳細な契約を交わし、安心安全な活動を確立しています。

また、冷凍食品の提供が多いことから、物流面での工夫も必要でした。同社はグループ企業の低温物流システムを活用して、提供先に食品を届ける仕組みを構築しています。

フードシェアリング

 

フードシェアリングとは、インターネット上のプラットフォームなどを活用して、廃棄予定の食品を消費者に共有する活動を指します。フードシェアリングの概要を解説し、Kuradashiとロスゼロの事例を紹介します。

フードシェアリングとは

包装のリニューアルや販売終了などの理由で販売できず、廃棄するしかない商品を抱える食品製造業者は少なくありません。また、納品と販売の期限を決める「3分の1ルール」の影響で、まだ食べられるにもかかわらず販売できない食品も多くあるでしょう。このような場合に利用したいのが、フードシェアリングです。

そもそもフードシェアリングとは、余った食品を人々と共有することを指す概念です。現在は、ECサイトやアプリなどを通じて消費者に安価で購入してもらうことで、廃棄予定の食品を活用する取り組みをフードシェアリングと呼んでいます。

フードシェアリングを利用しているのは、食品製造業者だけではありません。飲食店や小売店、農家なども、プラットフォームを通じて消費者に食品を提供しています。

フードシェアリングとフードバンク活動は似た取り組みですが、目的や仕組みに違いがあります。フードバンク活動は主に社会福祉の観点から、食品の提供と配布が無償で行われることが特徴です。一方で、フードシェアリングは余剰食品の廃棄を減らすことを目的に、食品を消費者に安価で販売します。どちらも、食品ロスの削減に役立つ取り組みです。

フードシェアリングの事例

フードシェアリングのプラットフォームとして知られているのが「Kuradashi(クラダシ)」と「ロスゼロ」です。

Kuradashiは食品を中心に、通常の販路では提供できない商品を企業から提供してもらい、ECサイトで販売しています。商品は通常価格よりも安価で販売されており、消費者はお得に購入できるメリットがあります。さらに、売上の一部が社会貢献活動の支援に使われることも特徴です。

食品を提供する事業者にもメリットがあります。商品はKuradashiが買い取るため返品されることはなく、ECサイトに掲載する手数料なども発生しません。2015年からサービスを開始しており、フードシェアリングのプラットフォームとして長年の実績があります。そのため、事業者も安心して食品を提供できるでしょう。

ロスゼロは、事業者や生産者から提供された食品をそのまま販売するだけでなく、半製品や規格外の食材を新たな食品に作り替えて販売する「アップサイクル」という取り組みも行っています。

またロスゼロでは、企業のブランドを損なわないよう、商品の紹介や販路を失った理由の説明に力を入れています。ブランド名を公開しない販売も可能であり、ロスゼロであればブランドイメージを守りながら、食品ロス削減を実現できるでしょう。

IT技術の活用

IT技術の活用により効率的な生産や供給が可能になれば、食品ロスを削減できます。食品ロス対策に活用できるIT技術と、キユーピーでの事例を紹介します。

食品ロス対策にもIT技術を活用できる

食品製造業の食品ロス対策としてIT技術を活用できる場面は、多岐に渡ります。そのひとつが、食品のトレーサビリティを効率化するコードやタグの導入です。食品にバーコードやQRコード、RFIDタグなどを付与すると、在庫や賞味期限の管理が容易になります。在庫状況をリアルタイムで把握できるようになれば、過剰生産も防げるでしょう。

AIを活用して、食品廃棄を可視化する取り組みも進んでいます。カメラを内蔵したAIシステムが食品廃棄を撮影して分析し、廃棄量や経済的損失などを算出します。食品廃棄の実態の把握により従業員の意識を高め、食品ロス削減の取り組みを促進することが狙いです。

IT技術により商品の需要予測の精度を高めれば、過剰在庫を防ぐことも可能になります。このように、IT技術は食品ロス対策に多様な可能性をもたらすでしょう。

食品ロス対策におけるIT活用の事例

マヨネーズの製造で有名な「キユーピー」は、AIを搭載した原料検査装置を導入しています。

従来の原料検査装置は、不良品のパターンを学習させる手法が一般的でした。しかし、食材は形や品質が均一でなく、AIでも判別が困難なことが課題でした。そこで同社は発想を逆転させ、良品のパターンを学習させることで検査精度を大幅に向上させたのです。

ベビーフードで使用する冷凍角切りポテトの検査を、目視から検査装置に変更したところ、検査速度が向上しました。さらに、原料段階で不良品を除くことで、製品の廃棄削減にもつながっています。同社では、惣菜に使用するカット野菜など、ほかの食品の検査にもAI搭載の原料検査装置を導入しています。

まとめ

今回は、食品製造業で取り組める食品ロス対策として、フードバンク活動、フードシェアリング、IT技術の活用について解説しました。このなかでもIT技術の活用は、食品ロス対策において多くの可能性をもたらします。

温度管理を自動化する「ACALA」も、食品ロス対策に活用できるシステムのひとつです。「ACALA」は、冷蔵庫や冷凍庫に設置したセンサーが1分ごとに温度を自動測定し、無線ネットワークを利用してデータを収集します。

食品の温度管理が適正化されると、食品の劣化が防がれ、無駄な廃棄の抑制につながります。食品ロス対策に「ACALA」を導入して、食品の温度管理を徹底しましょう。