

ヒスタミン食中毒を予防する冷凍食品の温度管理

低温保存が基本の冷凍食品でも、衛生管理には十分な注意を払わなければなりません。適切な温度管理が行われていなければ、ヒスタミン食中毒が発生して消費者の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。本記事では、ヒスタミン食中毒の特徴とその予防法を解説します。あわせて、飲食店や給食施設における冷凍食品の正しい保存方法と解凍方法についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
冷凍食品が原因で食中毒が発生することがある
2024年12月、長野県の小学校で冷凍食品が原因とみられる食中毒が発生しました。
3つの小中学校で給食を食べた児童生徒と教員あわせて46人が、発疹や頭痛、下痢などの症状を訴えました。県が給食で提供された食材を検査したところ、カジキから「ヒスタミン」が検出されたため、ヒスタミンによる食中毒が発生したと考えられています。
食中毒が発生した給食を調理した給食センターでは、冷凍のカジキを常温で解凍し、最後にオーブンで焼くまで約2時間にわたり常温で調理していました。
この長野県の事例で食中毒の原因となった食材は、冷凍食品でした。低温保存により微生物の繁殖が抑えられることから、冷凍食品は安全であると考えている方が多いのではないでしょうか。しかし、取り扱い方を誤ると食中毒が発生するため、冷凍食品とはいえ油断はできません。
ヒスタミン食中毒とは
先ほどの長野県の事例で食中毒の原因とされたのは「ヒスタミン」でした。ここではヒスタミン食中毒の発生状況を確認するとともに、ヒスタミン食中毒の特徴と予防する方法を紹介します。
ヒスタミン食中毒の発生状況
国内における2018年から2023年までのヒスタミン食中毒の発生状況は、次のとおりです。
事件数 | 患者数 | |
2018年 | 20 | 355 |
2019年 | 8 | 228 |
2020年 | 13 | 219 |
2021年 | 4 | 81 |
2022年 | 2 | 148 |
2023年 | 4 | 77 |
上記より、食中毒発生の届け出1件あたりに対する患者数が多いことが分かります。家庭内で起こることもありますが、飲食店のほか、保育園や学校などの給食施設で大規模な食中毒が発生している状況です。また、魚の缶詰から高濃度のヒスタミンが検出され、回収された事例もあります。
ヒスタミン食中毒の特徴
ヒスタミン食中毒は、ヒスタミンが大量に蓄積された食品を食べることで発症します。ヒスタミンとは、アミノ酸の一種であるヒスチジンに、ヒスタミン産生菌の酵素が作用して生成される物質です。
ヒスタミン食中毒では、原因食材を食べた1時間以内に顔面、とくに口のまわりや耳たぶが赤くなり、頭痛、発疹、発熱などのアレルギーに似た症状が現れます。そのため、魚アレルギーと間違われるケースも少なくありません。しかし、ヒスタミン食中毒はIgE抗体が関わらない点でアレルギーとは異なるものであり、あらゆる人に発症するリスクがあります。
ヒスタミン食中毒では重症になるケースは少なく、多くの場合、1日以内に回復します。
ヒスチジンが多く含まれるのは、マグロやカジキ、カツオ、サバなどの赤身魚やその加工品です。ヒスタミン産生菌は海水中に存在するため、漁獲された時点で魚類に付着しており、ヒスチジンとヒスタミン産生菌を取り除くことは不可能です。
また、ヒスタミン産生菌の酵素は冷凍状態では働かないものの、解凍されて品温が上昇すると急速に活性化され、ヒスタミンの生成が進むことが報告されています。さらに一般的な食中毒菌とは異なり、ヒスタミンは熱に安定しているため、一度生成されると加熱しても除去できません。したがって、食中毒を予防するにはヒスタミンの増加を防ぐことが重要です。
なお、ヒスチジンはワインやヨーグルト、味噌、醤油、納豆などの発酵食品にも含まれています。まれではあるものの、チーズがヒスタミン食中毒の原因になった事例もあります。
ヒスタミン食中毒の予防法
ヒスタミン食中毒を防ぐためには、次の衛生管理を徹底しましょう。
- 生の魚を保存する場合は、すみやかに冷蔵・冷凍し、常温におく時間を最小限にする
- 解凍や加工において魚の低温管理を徹底する
- 鮮度が低下した魚は使用しない
- 信頼できる業者から仕入れるなど、適切な温度管理がされている原材料を使用する
食品衛生法における冷蔵品の保存温度は10℃以下ですが、「大量調理施設衛生管理マニュアル」では生鮮魚介類の保存温度は5℃以下と定められています。10℃で保存した場合、保存期間が長期になるとヒスタミンの生成量が増えることがあります。
したがって魚は5℃以下で管理し、保存状態が悪い魚や長期間保存された魚はヒスタミンの生成が進んでいる可能性があるため、使用を避けてください。
ヒスタミン食中毒の予防は、飲食店や給食施設が原材料を仕入れてからの管理だけでは不十分です。漁獲から加工、流通段階でも低温で管理されている点が重要であるため、信頼できる仕入れ先かどうか見極めることも大切です。
また、ヒスタミンが高濃度に含まれる食品を口に入れると、唇や舌先にピリピリとした刺激を感じることがあります。このような感覚を覚えた場合は、食べずに廃棄しましょう。
冷凍食品の正しい保存・解凍方法
冒頭で紹介した長野県の事例では、冷凍のカジキを常温で解凍し、ヒスタミンが生成されたことが食中毒発生の原因と考えられています。冷凍食品であっても、食中毒の予防には注意が必要です。冷凍食品の正しい保存方法と解凍方法を理解して、食中毒を防ぎましょう。
冷凍食品の適切な保存温度は-18℃以下とされています。大量調理施設衛生管理マニュアルでは-15℃以下と規定されていますが、国際的な食品規格であるCodexや一般社団法人日本冷凍食品協会が定める「冷凍食品自主的取扱基準」では、-18℃以下を冷凍食品の管理温度基準としています。
未開封で適切な温度管理がされていれば、食品の包装に記載されている賞味期限まで保存可能です。ただし、冷凍状態でも乾燥や酸化により品質は徐々に劣化します。
一度開封すると品質が低下しやすくなるため、できるだけ早めに使い切りましょう。開封した冷凍食品が余った場合は包装内の空気を抜き、さらに冷凍用保存袋などに入れて密閉するとよいでしょう。また、一度解凍した食品の再冷凍は避けてください。
飲食店や給食施設における冷凍食品の適切な解凍方法は、次のとおりです。
肉、魚介類:冷蔵庫などの低温状態(5℃以下)で解凍する。
むきエビ、イカ、貝類:冷水で解凍する。
野菜類:ブロック凍結されたものは冷蔵庫で解凍する。コーンやグリーンピースなど、バラ凍結されたものは流水解凍する。
肉や魚介類、ブロック凍結された野菜は使用する前日から冷蔵庫に入れ、低温状態で時間をかけて解凍します。また、むきエビやイカ、貝類は乾燥や酸化を防ぐため、表面に薄い氷の膜(グレーズ)が施されています。したがって、冷水で表面の氷を洗い流してから使用しましょう。
参考:一般社団法人 日本冷凍食品協会「冷凍食品自主的取扱基準 及び 急速冷凍食品の加工及び取扱いに関する国際的実施規範(CAC/RCP 8-1976)」
まとめ
低温保存する冷凍食品では「食中毒の心配はない」と思いがちです。しかし、適切な温度管理がされていなければ食中毒が発生する可能性があるので、油断はできません。ヒスタミン食中毒のように加熱しても防げない食中毒もあるため、保存時から温度管理を徹底しましょう。
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